

優しい人だったのだろう。 会場の入口近くに展示された自画像は、キリッとした目線で私たちを見つめる。一見近寄り難そうな印象もあるのだが、会場を回っているうちに彼の顔をもう一度見たいと思い始める。すべての絵を見終えた後、再びルドンの自画像に戻る。そのとき、彼の心いっぱいに広がる”命”への愛が見えてくるのだ。 はっとさせられる1枚がある。「わが子」(Mon enfant/ 1893年)と名付けられた、リトグラフ。子供のあどけない容姿は成長によって変わっていく。その瞬間のあどけない輪郭を永遠にとどめようとする思いが伝わってくる。そのとなりには、ほのかにあたたかみのある色で彩られたベアトリーチェ(Béatrice/ 1897年)が。ミステリアスな黒から、色彩に溢れた世界へと向かうルドンの歩みが感じ取れる。 (…)