プロスペール・ディス:万人に向けた演劇演出家であり自らも俳優であるプロスペール・ディスは、フランスにおける演劇地方分散策の先駆者の一人だ。サンテチエンヌ市のÉcole du centre dramatique National de Saint-Étienne(国立劇場付属演劇学校)とオランジュ市のテアトル・デュ・サブリエ(砂時計劇団)を創立したのも彼である。彼は劇団黒テントが日本語で上演する「ショパロヴィッチ巡業劇団」の演出をする為に日本に一時滞在中である。フラン・パルレ:教えるということはあなたのお仕事の中心だと思いますが、伝えるということは・・・プロスペール・ディス:伝えるということは、実践なのです。何よりも劇団黒テントではそれです。なぜなら私が黒テントと組むのは3度目で、従って彼らは友達なのです。また彼らは、演劇というフィールドにおいて、私がオランジュ市で主宰しているテアトル・デュ・サブリエという劇団と同じ軸で仕事をする劇団です。それで、私たちは95年にアビニョン・フェスティバル(フランス演劇祭)で知り合いました。以来、私たちは芸術面と深い友情の両方の絆を作り上げてきたのです。だから私はここに居るのです、特に黒テントの若い俳優たちと仕事をする為に。フラン・パルレ:あなた方を結びつける軸とはなんですか?プロスペール・ディス:私たちに共通する軸とは、まずは同じ方法で語るということがあります。彼らが独自の探究経験があるにせよ、私たちには私たち独自の探究経験があるにせよ、それらは最終的には、ある点では共通しているのです。そのことが私たちをお互いに、黒テントとサブリエを結びつけたのだと思います。彼らはオフフェスティバルで最初に私たちが上演していたのを観に来てくれました。なぜならその時の演目がダリオ・フォー(イタリアの劇作家、俳優、演出家)の「虎物語」だったからです。彼らもまた同作品を上演していたのでした。私はその作品を私たちが同じように上演したとは言いません。でも舞台美術や演出、身体表現の探究において共通点がありました。俳優を指導する方法においても。私はその後、彼らの公演を観に行きました。それは素晴らしかったです。それに本当にお互いすぐに同じ感覚で話が出来た、というか。私たちは、お互いに、これで私たちは、兄弟姉妹、演劇愛においては双子だね、と言い合いました。フラン・パルレ:あなたの劇団にとって、アビニョン・フェスティバルの重要性はどんなところにありますか?プロスペール・ディス:オフフェスティバルは、それはショーウィンドウなのです…それはショーウィンドウだったのです。今はおびただしい数の劇団が参加しますから、だんだんそうではなくなっていますが。今年は千を超えたそうです。だから観客には、そのただ中で、好みの(劇団を)選択する、ということは少し難しくなっています。それにオフは、他のフェスティバルで既に固定客をつかんだ劇団が参加するショーウィンドウで、観客は他の多くの観客だけでなく、演目を選定するプログラム担当者たちにも出会う事が出来ます。私たちの場合は、私たちが上演した時、150から220人くらいの担当者が観にきていました。その全員が私たちの芝居を組み入れてくれるというわけではないけれど、それでも、ある程度の人数がそれを選び、プログラムに組み入れてくれるチャンスがあるということです。故に、それは劇団にとって自分たちの芝居を活用出来る機会となり、劇団を知ってもらうのと同時に、この芝居に関する出費の採算がとれるように努める場になるのです。なぜならアビニョン・フェスティバルでは、様々な劇団がホール賃貸料、広告、宿泊、食事、旅費等を出費しているからです。もちろん社会保障費も。だからそれは多大な出費となり、取り戻せるかは不確実なお金です。ところが、もしフェスティバル期間中に、私たちはいつもそのチャンスがあるのですが、収支バランスがとれたとすると、それは既に見事な勝利です。そしてその後もし(その芝居が)プログラムに組み入れられて、フランスや海外に広められたなら、それはもちろん素晴らしいことです。フラン・パルレ:上演する作品は、どのように選んでいらっしゃるのですか?プロスペール・ディス:まずは文体です。私は文体に感動するのです。それは内容自体であることはもちろん、ものの見方でもあるのです。当初の見方が発展していって、この作品は、演劇の仕事、私たちの演劇の実践に取り入れることができる、と私自身思い至るのです。例えば、覚えていますが、私が黒テントと組んで演出するのはこれが2回目です。1回目は、ミシェル・アザマの「十字軍」でした。そして今回はリュボミル・シモヴィッチの「ショパロヴィッチ巡業劇団」です。彼はセルビア人の作家で、今世紀の最も偉大な詩人の一人、今世紀の最も影響力のある劇作家の一人とみなされています。私はその内容が、劇団黒テントにおいて反映できるとわかっていました。なぜならそれは今世紀の主要な作品だからです。それは重要な作品であるばかりか、素晴らしい筆致で、古びることはないでしょう。それはシェークスピアのレベルだと私は思っています。フラン・パルレ:あなたは文化とは、とりわけ演劇は権利だとみなされていらっしゃるとか?プロスペール・ディス:文化は人としての権利です。仕事や教育が不可欠かつ当然の権利であるように、それは当然の権利であるとさえ言うでしょう。演劇は人にとって当然の権利でなければならないのです、つまり誰もが劇場に行けるということです。従って、最初に無くすべきバリアーは、確実に、あらゆる拒絶要因の内では、経済的なバリアーです。それ故にフランスでは、演劇は、様々な程度はありますが、国家補助を受けています。そして第二次世界大戦以降の最も勝利をおさめたことの一つで、フランス中に広まった現象は、演劇の地方分散策でした。それによって、確かに、演劇をするところはパリだけではないと国家が理解したのです。地方都市も創作の場所になりうるということです。しかしながら観客がもっと大衆化する為には、座席を取るのに、座席の値段があまり高くなりすぎないことが必要です。その為に国家補助を受けているのです。それは収支の赤字の一部を埋める為です。なぜならもし芝居の標準コストから座席の値段を計算すると、座席の値段はとてもとても高くなるだろうからです。これが、演劇が万人に開かれたものにするという、この戦いにおいて、地方分散策が勝利した一因です。そして経済的なバリアーは文化にアクセスするバリアーとなってはいけないのです。フラン・パルレ:俳優になりたいという人に、あなたはどんなアドバイスをされますか?プロスペール・ディス:まずは質の高い勉強をしなさいと言うでしょう。これはとても大切です。語学を勉強することです。なぜなら今や、様々な交流があるからです。演劇ではまだ少ないですが、もしテレビ、映画業界にいくなら、多種多様な共同制作があります。例えばイタリア語、ロシア語、ポーランド語、とフランス語というように、そしてそこでは俳優たちは少なくともそれらの言語の中の一つで事足りるようにならなければなりません。その上、質の高い勉強をすることは、文化に、あらゆる文化に通じるということです。それは分析力や考察力を身につけることになり、これは演劇には最も大切です。なぜなら台本を貰った時に、演出家がその芝居全体に盛り込みたい感覚について俳優が考えるように持っていく必要があるからです。|2009年10月インタヴュー:プリュウ・エリック翻訳:粟野みゆき
プロスペール・ディス、演出家・俳優
投稿日 2009年10月1日
最後に更新されたのは 2023年5月23日