この映画で虐げられるのは若者だけではない。「移民」と呼ばれ貧困と直面する多くの人々が、一部の権力者に翻弄される。外壁が崩れかけ老朽化した建物は、行政側にとって処分すべき対象。しかし、必死でローンと金利を払い続けて住む移民たちにとっては、かけがえのない居場所だ。破壊しようとする者たちと守ろうとする者たちとの闘い、守ろうとする者が陥っていく狂気……監督のラジ・リは、パリ郊外、モンフェルメイユの出身。彼自身が見てきたもの、聞いてきたことがベースとなり、濃密なフィクションが完成した。物語は悲惨な方向へと展開していく。それでも、「あなた自身をひとことで表現するなら?」という記者の問いかけに« Je suis une Française aujourd’hui. » 「私は“現代”のフランス人なんです」と答えたアビーのまなざしに、ひと筋の希望が残されているように思える。(Mika Tanaka)