歌手イヴェット・ギルベールを描いた水彩画、ダンサーのジャヌ・アヴリルと詩人エドゥアール・デュジャルダンが描かれた、キャバレ「ディヴァン・ジャポネ」のポスター。編集長の妻がスケートを楽しむ様子を描いた『ラ・ルヴュ・ブランシュ』誌のポスター ……どの作品も、シンプルで軽やかで、自由に溢れたパリの香りが漂う。
作者の名はアンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック(1864 年-1901 年)。
明るく華やかな数々の作品が多い中、《アルフォンス・ド・トゥールーズ=ロートレック伯爵の肖像》と題された簡素な素描がひときわ印象に残る。アルフォンスは、彼の父だ。南フランスの伯爵家出身の父と、読書好きで穏やかな母の元に生まれた彼を待っていたのは、決して幸せいっぱいの少年時代ではなかった。弟を小さい頃に亡くし、10代の頃に両足を相次いで骨折、両親の離婚を体験した。その後、彼は母とともに生