『私の大嫌いな弟へ ブラザー&シスター』なぜなのか?いつからなのか?はっきりとはわからない。でも、姉は自分を憎んでいる。ルイ(メルヴィル•プポー)はそう感じている。そして姉のアリス(マリオン・コティヤール)もまた、自分がルイから憎まれていると思っている。アリスは舞台女優、そしてルイは詩人。どちらも繊細で複雑な感受性を抱えて生きている。同じ両親を持ち、同じ家で暮らしてきた姉弟。アリスの下には、長男のルイと次男のフィデルがいる。フィデルも、そして両親も、アリスとルイの関係に深入りすることはなかった。というより、それができないほど、2人の憎しみの距離は近かったのだろう。アメリカの哲学者、スタンリー・カヴェルに「映画は私たち人間をよりよくしてくれる」という言葉がある。「私もそう思うのです」とアルノー・デプレシャン監督は語る。「実生活の私たちはとても不器用です。失敗ばかりしていて、修復なんてできないのかもしれません。でも、映画にはその力があると思う。人生の一部分かもしれないけれど、映画を観ることがそれを修復する助けになるのではないかと。映画はひとつの出口、突破口だと思うのです」純粋で子供のようなあどけなさを残すマリオン・コティヤールと、成熟した深みを増していくメルヴィル・プポー。2人の俳優の魅力を優しくそっとすくい取りながら、デプレシャン監督は和解へのプロセスを撮り上げる。さりげない日常をかけがえのない芸術に変化させる映画の魔法。人間の「愚かゆえの愛おしさ」がじんと伝わってくる。(Mika Tanaka)監督:アルノー・デプレシャン出演:マリオン・コティヤール、メルヴィル・プポー、ゴルシフテ・ファラハニ、パトリック・ティムシット2022年/110分/フランスFrère et Sœur d’Arnaud Desplechin avec Marion Cotillard, Melvil Poupaud, Golshifteh Farahani, Patrick Timsit; 2022, France, 110 min
『私の大嫌いな弟へ ブラザー&シスター』 Frère et Sœur