『苦い涙』舞台は1972年の西ドイツ、ケルン。映画監督として活躍するピーター・フォン・カント(ドゥニ・メノーシェ)を3年ぶりに訪れた女優のシドニー(イザベル・アジャーニ)は、ビーターに1人の青年・アミール(ハリル・ガルビア)を紹介する。不幸な生い立ちを健気に語るアミールを前にピーターはカメラを回し、23歳の若者の微細な表情の変化にたちまち魅せられる。「君をスターにすると約束する」と宣言したピーターは、アミールを自分の家に迎え入れ忠実な助手のカール(ステファン・クレポン)と3人で暮らし始める。愛とはいったい何であろうか。人は孤独だから愛を欲するのだろうか。愛されることと愛すること、どちらがより苦しいのだろうか……重いテーマの室内劇を軽やかに描くフランソワ・オゾン監督の最新作は、彼が敬愛するドイツのライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督の『ペトラ・フォン・カントの苦い涙』(1972年)のリメイク版。オリジナル版に出演していたハンナ・シグラが、本作でピーターの母・ローズマリーを演じる。誕生日に醜態をさらけ出し無防備に泣きじゃくる息子を彼女の子守歌が優しく包み込むときの温もりが、スクリーン越しに伝わってくる。そんな大女優と堂々と共演し華麗に歌うイザベル・アジャーニとの久々の再会に胸躍らせた人も少なくないのでは。ピーターの娘・ガブリエル(アマント・オディアール)のみずみずしさと、無言で多くを語るカールの存在感も忘れ難い。(Mika Tanaka)監督・脚本:フランソワ・オゾン出演:ドゥニ・メノーシェ、イザベル・アジャーニ、ハリル・ガルビア、ステファン・クレポン、ハンナ・シグラ、アマント・オディアール2022年/85分/フランスPeter von Kant de François Ozon avec Denis Ménochet, Isabelle Adjani, Hanna Schygulla, Stefan Crepon; 2002, France, 85 min
『苦い涙』 Peter von Kant
投稿日 2023年5月24日