こっそりとのぞく愛、奪い去る愛、母の愛、父の愛、娘の愛、神への愛、その場限りの愛……ルーヴル美術館から寄せられた愛にまつわる絵画の数々は、決して美しくはない人々の欲望、そのありのままの姿をも晒し出す。人間とはなんと身勝手な生き物であることか、そう思うと同時に、それでも美しい肉体のラインにじっと見入る。人物画の多い本展の中で、ひときわ異彩を放つのが、サミュエル・ファン・ホーホストラーテン(Samuel van Hoogstraten)による《部屋履き》(Les Pantoufles)だ。しんと静まり返った家の中、脱ぎ捨てられた部屋履きと鍵穴に挿しっぱなしの鍵といった暗喩的なアイテムがさりげなく描かれる。人の姿はまったく見えない。が、絵の中に血の通った人の気配が確かに感じられる。1人ひとりが異なる想像力で心に描くそれぞれの「愛」。パリの美術館が届けてくれる贈り物のリボンを、そっとほどいてみよう。(Mika Tanaka)