人類の歴史が始まってから今まで、私たちはどれだけの数の戦争をくり返してきたのだろう。その悲惨な光景の数々は、多くの芸術家たちによって表現されてきた。この展覧会では、戦争を主題として刻まれた120点近くの銅版画等が展示される。ジャック・カロ(1592-1635)は17世紀のヨーロッパ諸国の多くの人々を巻き込んだ宗教戦争「30年戦争」で、祖国愛や忠誠心ではなく、金銭のために闘う傭兵たちの非道とその末路を描いた。フランシスコ・ゴヤ(1746-1828)が取り上げた主題は、19世紀の「ナポレオン戦争」だ。大規模な戦闘ではなく、ゲリラ化したスペイン民衆たちとフランス軍兵士が互いに見えない敵におびえ、互いに暴力をエスカレートさせていった日々を淡々と表現した。そして、オットー・ディックス(1891-1969)。彼の主題「第一次世界大戦」では、祖国愛をあおる風潮に乗って、自ら志願して戦場に向かう若者たちの痛々しい姿が描かれる。自らも一兵士として戦ったディックスは、その記憶に長い間苦しみ続けたという。日本でも、「お国のために」と多くの尊い命がカミカゼとして散っていった。彼の作品をみれば、忘れかけていたけれど忘れてはいけない大切なことに気づくかもしれない。そうであってほしい。(文 Mika Tanaka)