パリの歴史を振り返るとき、忘れてはならない節目がある。「パリの外科手術」とも呼ばれている「パリ大改造」(1853-70)だ。皇帝ナポレオン3世(1808-73/在位:1852-70)と1853年にセーヌ県知事に就任したオスマン男爵(1809-91)によってすすめられたこの大手術によって、パリの景観は驚くほど様変わりする。現在へと続くこのパリの姿は印象派をはじめとする多くの画家たちに愛され、描かれてきた。一方で、大改造の名のもとに行われた破壊と変化に、多くの犠牲を強いられた人々も数多くいた。都市部にひしめいていた貧しい労働者や職人たちは、パリの郊外へと追いやられていく。多くの不満や苦しみは、消えてしまったコミュニティや街並みを懐かしむ声へとつながり、そんな懐古的な風景もまた芸術家たちの題材となった。『いにしえのパリ』(1866)という、アドルフ・マルシアル・ポテモン(1828-83)の版画の数々には、そんなノスタルジーが反映されている。ユゴーやバルザックに描かれた、「かつてのパリ」だ。絵画、衣装といったさまざまな美術作品を通し、パリの大改造がもたらしたものを中心に、パリの歴史を振り返ってみたい。(文 Mika Tanaka)