『ヴィオレット-ある作家の肖像-』 Violette“ボーヴォワールの女友達”と呼ばれた実在の女性作家ヴィオレット・ルデュックの生涯を描いた作品。ヴィオレット・ルデュックは1907年、北フランスの街アラスで私生児として生まれた。挫折した小説家で同性愛者のモーリスとの出会いをきっかけとして、彼女は小説を書き始める。初めての小説「窒息」を完成させた彼女は、シモーヌ・ド・ボーヴォワールと知り合い、その才能を見いだされる。女として初めて”性”を語った彼女の作品は当時の文学界に大きな衝撃を巻き起こす。そんな彼女が作品を通じて、そして人生を通じて求め続けたのは愛であった。本作は、そんなヴィオレットの姿を、生涯にわたって続いたボーヴォワールとの関係を中心に描いた作品となっている。従来、ヴィオレットは、”性”を赤裸々に描いた作家として、そのスキャンダラスな側面にのみ目が向けられていた。しかし本作では、壊れやすく傷つきやすい内面を持つ一人の女性としてヴィオレットを捉え、不安定な部分を抱えながら、孤独と戦い、愛を求めて苦しむ様子に注目している。監督は2008年の『セラフィーヌの庭』でセザール賞最優秀作品賞を含む7冠に輝いたマルタン・プロヴォ。前作同様、本作でも優れた脚本、大胆な構成、瑞々しい自然描写でヴィオレットの深い内面を浮き彫りにしている。主人公のヴィオレットを演じるのは、フランス女優ならではの個性的な美しさを持つ名女優、エマニュエル・ドゥヴォス。圧倒的な演技力で、複雑で繊細な女性としてのヴィオレットを見事に演じきっている。また、ボーヴォワールの他に、作家のジャン・ジュネ、調香師のジャック・ゲランといった実在の人物も登場し、新しい文化の胎動を見せる戦後パリの様子が生き生きと描かれているのも本作のみどころの一つである。傷つきながらも愛を求め続けるヴィオレットの姿、そして、ボーヴォワールとの友情も愛も越えた美しい絆が深い余韻を心に残す作品である。監督:マルタン・プロヴォ出演:エマニュエル・ドゥヴォス、サンドリーヌ・キベルラン、オリヴィエ・グルメ、ジャック・ボナフェ、オリヴィエ・ピィ2013年/139分/DCP
『ヴィオレット-ある作家の肖像-』 Violette