『夜明けの祈り』Les innocentes1945年12月、ソ連侵攻下のポーランド。このときのソ連軍は、ポーランドにとって「英雄」だった。ドイツからポーランドを解放したからだ。その一方、英雄・ソ連軍は多くのポーランドの女性たちの尊厳を奪っていた。その女性たちの中には、神に操を誓った修道女たちも含まれる。主人公のマチルドを演じたルー・ドゥ・ラージュさんは、映画をこう語る。「修道女たちは、ソ連兵に2回、犯されます」と。1つは、彼女たちの体。そしてもう1つは、”誓い”だ。「彼女たちは、神への誓いを犯されてしまうのです」・・・・・・この映画には、マチルドのほかにもう一人の主役がいる。それが、シスター・マリアだ。「信仰の始まりは、子供のようなものです。父親が手を引いてくれる。しかしいつか、その手が離され、暗闇を迷子になる。十字架は喜びの背後に必ずあります」。彼女が口を開くと、ポーランドなまりのフランス語は宝石のような輝きを放ち、若い医師マチルドを静かに導く。「信仰とは、24時間の疑念と1秒の希望です」。ルーさんが、映画の中でもっとも印象に残る言葉として挙げたのが、シスター・マリアのこの台詞だった。『夜明けの祈り』は、フランス映画祭2017で上映された12作品の中で、観客が選ぶベスト作品『エールフランス観客賞』に輝いた。愛もなく宿ったはずの子でありながら、その子たちの誕生シーンはエネルギッシュで希望に満ちてる。自分の背負ったルーツをはじき飛ばすかのような、その大きな泣き声のなんと尊いこと!子供たちの命とシスターたちの尊厳の2つを守ろうと、最後まであきらめずに行動したマチルドの勇気が胸を打つ。マチルド役のモデルとなったのは、レジスタンス運動にも身を投じた女性医師・マドレーヌ・ポーリアック。この映画がまったくのフィクションではないことを、忘れたくはない。 (Mika Tanaka)
監督:アンヌ・フォンテーヌ出演:ルー・ドゥ・ラージュ、アガタ・ブゼク、アガタ・クレシャ、ヴァンサン・マケーニュ2016年/フランス・ポーランド/フランス語・ポーランド語・ロシア語/115分
『夜明けの祈り』Les innocentes