『残されし大地』La terre abandonnée2011年3月11日。この日、日本を襲った大地震は、その後の日本を大きく変えた。地震は津波を呼び、福島の原子力発電所を破壊した。子供や孫の将来を考え、故郷の福島から去る人がいた。その一方で、放射能に脅かされた故郷に残る選択をした人もいた。福島第一原子力発電所から約12キロ離れた場所にある、富岡町。この町に残り、置き去りにされた動物たちの世話を続ける、松村直登さん。彼は、父親と2人で「避難指示解除準備区域」とされている自分の自宅に留まる道を選んだ。その生きざまに、ジル・ローラン監督は「武士道」の精神を感じ取り、敬意を込めてカメラを回す。福島での撮影は、2015年の8月から10月の間に行われた。その後、ジル・ローランは作品編集のため、祖国のベルギーに帰国する。そして本作の内覧試写の予定日である2016年3月22日、ブリュッセルの自爆テロに巻き込まれた。この作品は、ジル・ローランの監督デビュー作であるとともに、遺作となった。彼の日本人の妻をはじめとする周囲の人々が彼の思いを受け継ぎ、本作は完成した。蜘蛛の巣にかかった蝶、明るい日差しがくっきりと映し出す木々の影・・・・・・ドキュメンタリーという手法の行間に垣間見える静寂が、悲しくなるほどに美しい。(Mika Tanaka)監督:ジル・ローラン出演:松村直登ほか2016年/ベルギー/76分/DCP
『残されし大地』La terre abandonnée