シネスイッチ銀座 03-3561-0707上映中Le procès du chien Crédits : ©︎BANDE À PART - ATELIER DE PRODUCTION - FRANCE 2 CINÉMA - RTS RADIO TÉLÉVISION SUISSE - SRG SSR - 2024 『犬の裁判』「飼い犬の弁護を頼みたい」もしもあなたが弁護士で、あるときこんな依頼を受けたらどうしますか?舞台はスイス。成果を出せず、セクハラを受け、窮地に立たされる弁護士のアヴリル(レティシア・ドッシュ)は、家政婦の顔に噛みつき致命的な傷を負わせた犬・コスモス(コディ)の弁護を引き受けることになる。レティシア・ドッシュ Laetitia Dosch Crédits : 2025年3月21日、横浜フランス映画祭2025会場にて撮影 ©︎Mika TANAKA 依頼に訪れたのは、コスモスの飼い主・ダリウシュ(フランソワ・ダミアン)だが、法廷に立つのはコスモス自身。ワンワンと吠えるコスモスに向かい「静粛に」と裁判官が告げると「犬のコスモス、姓はなし、男性、2010年1月17日……」と人定質問が始まる。
シュールなシーンである反面、絵空事として笑い飛ばせない不思議な感覚が残るのはなぜだろう。映画の元となった犬は実在する。犬が噛みつきを繰り返したため、飼い主が被告となり、町ぐるみで判決をめぐる議論が繰り広げられたのだ。被告を飼い主から犬自身に変え、軽やかな展開に人権の精神を取り入れたレティシア・ドッシュ監督のセンスが冴え渡る。コ スモスを危険とみなす市民と擁護する市民の衝突、裁判を追いかけるマスコミの取材に応じるアヴリル。テレビに映った自分の甲高い声に 落ち込む彼女の理解者となる1人が、小さな隣人・ジョアキムだ。まだ親の庇護が必要な年頃の少年は、母親でも恋人でもないアヴリルを慕い、時折彼女の部屋を訪れる。 彼女とコスモスの力になろうと情報を集め、傍聴人として法廷を訪れる健気さはどこから来るのか……親から虐待される子供、 視覚障がい者、顔に傷を負った女性。映画には多くの弱者が登場するが、決して屈したり泣き寝入りしようとはしない。女性であり、移民であり、顔に傷を負うという悲劇に見舞われた原告のロレネが選んだその後の人生を知ると、私たちの未来は決して絶望に値するものではないという気がしてくる。「これは犬1匹の問題ではありません。私たちの未来に関わる問題です。それぞれの個性が尊重される世界にするために、未来の扉を開けましょう」アヴリルの最終弁論が力強く優しい。(Mika Tanaka)監督:レティシア・ドッシュ出演:レティシア・ドッシュ、フランソワ・ダミアン、ジャン=パスカル・ザディ、アンヌ・ドルヴァル、コディ(犬)2024年/スイス・フランス/フランス語/81分日本語字幕: 東郷佑衣À l’écranLe procès du chien de et avec Lætitia Dosch avec François Damiens, Jean-Pascal Zadi, Anne Dorval, Kodi le chien; 2024, Suisse, France, 81 minアップリンク吉祥寺 0422-66-50427月18日(金)よりルネ・ラルー ファンタスティック・コレクションイマジネーションにあふれる世界観と唯一無二の独創性で、時代を超え熱狂的に愛されるSFアニメーション界の鬼才ルネ・ラルー。彼が残した長編全3作を一挙上映。『ファンタスティック・プラネット』1973年/フランス・チェコスロヴァキア/フランス語/72分『時の支配者 4K修復版』※当館は2K上映1982年/フランス・ハンガリー/フランス語/78分『ガンダーラ 4K修復版』※当館は2K上映1987年/フランス・北朝鮮/フランス語/83分下高井戸シネマ 03-3328-10087月12日(土)〜18日(金) 9:30La nouvelle femme Crédits : © Geko Films – Tempesta - 2023 『マリア・モンテッソーリ 愛と創造のメソッド』原題は”La nouvelle femme” 、「新しい女性」だ。映画の舞台となった1900年代、教養があり自立した女性をこう呼んでいた。マリア・モンテッソーリ(ジャスミン・トリンカ)は、この言葉を体現するような人物だっ た。しかし、新しい女性であり続けるために彼女が払った代償は決して小さなものではなかった。男性に劣ることのない知識や技量、鋭い観察力を持つマリアは、一般の学校では受け入れられなかった子供たち(障害を 持つ子供たち)を教育する研究所を運営し、めざましい成果を上げていく。しかし、称賛を浴びるのはいつも男性である研究所のパートナー、 ジュゼッペ。それどころか、彼女には報酬や給与は一切ないのだ。そんな彼女の光となるのが、もう1人の「新しい女性」、リリ(レ イラ・ベクティ)。結婚し、子供を産み大切に育てていたリリだが、娘のティナが障害児であることがわかり、双方の親の判断で離縁させられ る。リリはティナ(ラファエレ・エスポジト)を母親に預け、自身はクルチザンヌ(高級娼婦)として人生を再スタートする。ティナの存在を隠すためパリからローマへやって来たリリは、マリアの研究所を訪れる。ティナを預かってもらい、自分 は仕事に専念するためだ。出会った当初は反発し合っていたかのような2人だが、距離は徐々に縮まり、いつしかお互いになくてはならない存在となっ ていく……モ ンテッソーリ教育の祖であるマリアは、決して無敵で完璧な女性ではなかった。彼女がはらむ矛盾やトラウマを丹念に描き出したのは、レア・トドロフ監督。これが初めての長編映画となる。遺伝性の病気を持った娘の誕生が、この映画の制作するきっかけだった。それゆえだろうか、子供たちの描写に愛が溢れている。子供たちのキャスティングには時間をかけ、入念にワークショップを行ったという。「障害児」といって も、その障害にはたくさんの種類があり、ひとくくりにはできない。モンテッソーリ教育が提唱する「観察」をトドロフ監督は実践し、その結 果子供たちの素晴らしい演技を引き出すことに成功したのだろう。「障害のある子供たちに多くを期待しないということは、それを見捨てるこ とになってしまうと思うのです」と語るトドロフ監督の言葉に、マリア・モンテッソーリの姿が重なる。(Mika Tanaka)監督・脚本:レア・トドロフ脚本:カトリーヌ・バイエ出演:ジャスミン・トリンカ、レイラ・ベクティ、ラファエル・ソンヌヴィル=キャビー、ラファエル・エスポジト、ピエトロ・ラグーザ、アガト・ボンゼール2023年/フランス・イタリア/イタリア語・フランス語/99分La nouvelle femme de Léa Todorov avec Jasmine Trinca, Leïla Bekhti, Rafaëlle Sonneville-Caby, Raffaele Esposito, Agathe Bonitzer; 2023, France, Italie, français, italien, 99 min7月19日(土)〜25日(金) 15:50『けものがいる』永遠の愛は存在するのだろうか。たとえ生まれ変わっても、前世に愛した人を探し続けることができるのだろうか?2044年。ガブリエル(レア・セドゥ)は、大半の仕事をAIが担い失業率が67%に達した社会で生きている。自分には知識も能力もある。しかし、AIと同じレベルで働くためには、「DNAの浄化」というセッションを受けなければならない。DNAの浄化とは、現世の潜在意識に刻み込まれた前世からのトラウマを消し去ること。「我々は、君の感情の排除を手助けできるのだ」。面接官のAI( 声:グザヴィエ・ドラン)の乾いた声に戸惑いながらも、職を得るためにと、ガブリエルはセッションに身を投じる。セッションでは、前世の記憶を再現しなければばならない。浄化のために必要なのだ。それがつらい作業であるとしても。1910年、パリ。ピアニストとして活躍するガブリエルには、人形製造工場を経営する夫(マルタン・スカリ)がいる。しかし、常にある不安(不吉な予感)にさいなまれ心は晴れない。ロンドンからやってきた青年ルイ(ジョージ・マッケイ)に紹介され、予知能力を持つ不思議な女性(エリナ・レーヴェンソン) を訪れると、彼女はこう語る。「けものがいる」と。「男がひとり見える。彼は夢の中でしか愛を交わせない」 。2つめのセッションは2014年、ロサンゼルス。ガブリエルは女優を志している。日々の生活は決して華やかではない。建築家の豪邸で留守番の仕事をしながら、オーディションに参加する毎日。心にぽっかりと空いた穴の正体がつかめず、孤独を紛らわそうとクラブに通うが、友達も恋人もできない。あるとき、偶然みつけた「ジーナの占い」というサイトにアクセスする。占い師のジーナ(マルタ・ホスキンス) はオンライン越しにこう語る。「あなたが心配。彼は夢の中でしか愛を交わせない 」ラブ・ストーリーとSFとスリラーと……さまざまな要素が混ざり合いながら、ゆらゆらとした情緒を醸し出す。人形とハト、蝶々夫人やロイ・オービソンの曲といった小道具、冴え渡る役者たちの演技をあますことなくとらえた映像に息を呑む。ベルトラン・ボネロ監督は映画の中で、1910年のパリの大洪水と2014年のロサンゼルスの地震を取り上げている。そして2044年に起こるのは、天災ではなく人災。ボネロ監督の警鐘を、私たちはしっかりと受け止めることができるだろうか。(Mika Tanaka)監督・脚本:ベルトラン・ボネロ出演:レア・セドゥ、ジョージ・マッケイ、ガスラジー・マランダ、ジュリア・フォール、ダーシャ・ネクラソワ、面接官(声)グザビエ・ドラン2023年/フランス・カナダ/英語語・フランス語/146分Du 19 au 25 juiletLa bête de Bertrand Bonello avec Léa Seydoux, George MacKay, Guslagie Malanda, Julia Faure, Dasha Nekrasova, Xavier Dolan (voix); 2023, France, Canada, anglais, français, 146 min

東京で上映されるフランス語圏映画Les films en français à Tokyo
投稿日 2018年1月31日
最後に更新されたのは 2025年7月7日
