『モン・ロワ 愛を巡るそれぞれの理由』 Mon roi「ありのままの俺に惹かれたんじゃないのか?だったら、俺のありのままを受け入れろ」自分の欠点をさらけ出した恋人からこう言われたら、あなたならどうしますか。すべてを包み込んで抱きしめるか?甘える相手を振り切って、次の一歩を歩き始めるか?恋愛に正解はない。この映画の主人公・トニー(エマニュエル・ベルコ)もまた、悩みながら、学びながら、そのときどきで、自分にとって最良と思う決断を重ねる。弁護士を営み、容姿もライフスタイルも地味なトニーが、離婚して傷ついた後に出会った男性は、レストラン経営者として華やかな生活を送るジョルジオ(ヴァンサン・カッセル)だ。運命に導かれるかのように恋に落ちる二人。だが、穏やかな幸せを望むトニーは、ジョルジオが招く嵐に巻き込まれ、疲弊していく。「私は、愛も苦しみもほしくない。波打つ人生はいや、平らな人生がいいの」と訴えるトニーにジョルジオはこう応える。「波を打たない心電図は、死んでるのと同じだ!」苦しみも喜びも分ち合いたいと願うトニー。楽しい時間だけを共有し、自分の逃げ場を確保したいと主張するジョルジオ。2人の間に生まれた息子、シンドバッドの成長が、2人が過ごす10年という歳月を体現してくれる。第41回セザール賞主要8部門にノミネートされ、第68回カンヌ国際映画祭では、主演のエマニュエル・ベルコが女優賞を獲得。映画は、トニーがスキー場で怪我をするシーンから始まる。「人はときどき、自分が見えなくなるときがある。そしてやけに急いだり、後ろを振り返らず転倒して、大けがをするのよ」リハビリのために訪れたセンターの理学療法士は、まるでヒーリングかカウンセリングのように、穏やかにトニーに語る。そして、ある専門書の一節を読む。「ヒザの痛みは、現状を否定する心理と連動する。治癒においても同じ心理的道筋をたどる」。フランス映画で自然に語られているけれど、この思想は、ある意味とても日本的だ。こんな始まりを描けるのは、監督・脚本を手がけたのが女性であるマイウェンだったからではないかと感じる(Mika Tanaka)監督:マイウェン出演:エマニュエル・ベルコ、ヴァンサン・カッセル、ルイ・ガレル、イジルド・ル・ベスコ2015年/126分/R15+
『モン・ロワ 愛を巡るそれぞれの理由』 Mon roi