『アニマル ぼくたちと動物のこと』ベラ・ラック、ロンドン在住。X(旧ツイッター)で13万人のフォロワーを持つ。ヴィプラン・プハネスワラン、スリランカ出身。現在はパリを拠点に活動している。育ってきた環境が異なる2人の共通点は、どちらも熱心な環境活動家であること。そして、2人とも撮影時に16歳だったことだ。欺瞞に満ちたこの世界で、ベラとヴィプランは動物や地球を守る活動をしている。自分たちのかけがえのない時間を費やして。でも、その犠牲に見合った成果がないことに憤る。あるとき2人は、暗い場所に案内される。電気がついたとたん、彼らは言葉を失う。そこにはケージに詰め込まれたウサギが大量にいた。ショックを受ける子供たちに続いてカメラが捉えたのは、どこか悲しげな目をした飼育場の管理者だ。飼育現場の実情を語る中、ベラとヴィプランに何かを「伝えたい」という必死の思いが伝わってくる。「ウサギを飼育する業者の人から、ぜひ取材をしてほしいという連絡が動物愛護の団体を通して入ってきたのです」とシリル・ディオン監督は振り返る。なぜウサギをその環境で育てるのか、それは本当に動物虐待なのか、ベラとヴィプランは映画の中で異なる立場の声を聞き始める。あるとき、2人はクロードという名の牛飼いに出会う。牛が大好きなクロードは、牛飼いでありながら牛の数は数えない。1頭1頭、牛の名前をノートに書き留めているから。そして、牛が屠殺場に連れて行かれるたびに涙を流す。ディオン監督は、環境破壊や動物虐待の実情を多角的な視点で捉える。一方的な正義感はそこにはない。そして、どうすれば地球と人間の双方にとってよい選択ができるのか、その答えを観客に問いかけていく。虐げられる動物、絶滅の危機に瀕する動物たちを救うためにどうしたらよいか、問題提起がされていく中で、この映画の本当のテーマが少しずつ見えてくる。「動物への愛を、人間を憎むことに使っているんだね」。笑顔を見せることのないベラに、ディオン監督が静かに問いかける。映画の冒頭では大人たちへの不信感と怒りに支配されていたベラとヴィプラン。2人がさまざまな大人たちに出会い少しずつ心を開いていく過程は、心を癒していく旅のよう。学者、弁護士、ジャーナリスト、政治家、エコノミスト、農園主……自分たちの周りには、信じるに値する大人たちがいるのだ。2人は自分たちの未来に希望が残されていることを知る。ディオン監督が束ねた大人から子供への愛のメッセージを、1人でも多くの子供たちに届けたい。(Mika Tanaka)監督:シリル・ディオン出演:ベラ・ラック、ヴィプラン・プハネスワラン、ジェーン・グドール ほか105分/2021年/フランスANIMAL documentaire de Cyril Dion avec Bella Lack, Vipulan Puvaneswaran, Jane Goodall, Baptiste Morizot; 2021, France, 105 min
『アニマル ぼくたちと動物のこと』 ANIMAL