『テノール! 人生はハーモニー』オペラ歌手のマリー(ミシェル・ラロック)が、初めてオペラを観て心奪われたときのことをアントワーヌ(MB14)に語る。「オペラは、愛でいっぱいだったの」。登場人物が繰り広げる愛、オペラに携わる人々の音楽や仕事への愛、そして観客への愛……マリーにとって、「オペラ」が自分の居場所だったと。父を亡くしたアントワーヌにとって、兄が父代わりだった。弟のために大学の授業料を払い続け、堅実な仕事に就いてほしいと願う兄の期待に応えることは、アントワーヌにとってオペラへの道をあきらめるということ。ラップで対決して縄張りを守るアントワーヌがオペラを目指すことは、仲間たちを裏切ることを意味していた。自分の居場所を見つけられずにいるアントワーヌの背中を押すことができたのは、マリー自身もまたどうしようもない孤独を抱え、それをみつめる勇気があったからなのだろう。アントワーヌがスシの出前で訪れるオペラ座のガルニエ宮の美しさに、そこで響き渡る数々のオペラにうっとりする。世界的なテノール歌手のロベルト・アラーニャが本人役で出演し、ラッパーのMB14と2人で「リゴレット」と歌い上げるシーンが嬉しくてたまらない。ラップとオペラーー遠いと思われている2つの文化。それらは決して相反するものではなく、愛と信頼によって見事な調和を奏でることを示してくれる。(Mika Tanaka)監督:クロード・ジディ・ジュニア出演: ミシェル・ラロック、MB14、ロベルト・アラーニャ2022年/101分/フランスTénor de Claude Zidi Jr. avec Michèle Laroque, MB14, Maéva El Aroussi; 2022, France, 101 minhttps://gaga.ne.jp/TENOR/
『テノール! 人生はハーモニー』 Ténor