ニコラ・ル・リッシュ:パリ・オペラ座エトワールサルトルの『出口なし』が東京青山の「銕仙会」能楽堂で9月の第一週に、滅多にない形で上演された。これはまた、初めて舞台で演じたニコラ・ル・リッシュにとって一つの出会いとなった。フラン・パルレ:ダンスから演劇への移行は必ずしもはっきりしたものではないのでしょう…ニコラ・ル・リッシュ:そうです、それは明確な道ではありません。それは私がずっと心惹かれていた別の仕事で、実際今回がチャンスでした。この話に私をのせたのは、ギヨームです。ギヨーム・ガリエンヌ(コメディ・フランセーズの正座員)がこの劇の演出をして、他の全てのこういった冒険でもしばしばそうであるように、これは信頼の問題です。ギヨームが私の方に来て、こう言ったのです。「僕は君がこれをやったらいいと思うけど。興味あるかい?」私は彼に言いました。「じゃあ、やってみよう、それでその後、君がこれは使えると思うか否か、僕に言ってくれ。」そして彼はこれがやる価値のある冒険だと思ったようでした。フラン・パルレ:この演劇への移行はそれにしてもダンスと関係がありますよね、あなたの登場の仕方も能の舞でしたし…ニコラ・ル・リッシュ:もちろんです。私はこの冒険の全てが、出会いの物語だと思います。私の見方からすると、例えばこれは演劇との出会い、演劇との初めての出会いであり、直接の出会いと言えるでしょう。私は既に他の場所で演劇と出会っています。とりわけ高行健(フランス在住 2000年ノーベル文学賞受賞作家)がヴィユー・コロンビエ劇場で『週末四重奏』という劇を創った時、私は(振付けで)参加したのです。だから、これが私の初舞台です。私が自分の声を初めて使った回です。それはまた他の俳優:マルチーヌ・シュヴァリエ、ティエリー・デュ・ペレッティやアンヌ・ブーヴィエとの出会いでもありました。ギヨームは実際、ずっと前から知っています。私達は既にあるプロジェクトで一緒に仕事をしていました。彼は私がパリ•オペラ座の為のバレエの粗筋を書くのを手伝ってくれました。それは『カリギュラ』と題した作品で昨年10月、シーズン初めに初演しました。そしてここで私達を迎えてくれた能楽師観世氏(銕仙会を主催する九世観世銕之丞)との出会いです。人から人への出会いを通じて、かなり興味深い交流がなされ、それが続いて行くのです。明日、私達はさらに彼と能のテクニックについてのワークショップがあります。フラン・パルレ:それはクラシックバレエとはかなり違いますね…ニコラ・ル・リッシュ:もちろんです。それはかなり異なるテクニックです。それが例えばある一点に過ぎなくとも。しばしば私がやっている西洋バレエのダンサーはエレヴァシオン(跳躍中の演技)を追求します。地面の上の私達の身体を軽くしようと努めます。そしてここでは、例えば能においては、反対に、彼らは完全に地上に、おそらく地下にも居るのです。これは観ていて十分魅力的です。フラン・パルレ:あなたはクラシックバレエがおとぎ話タイプの物語に捧げられていると思われますか?ニコラ・ル・リッシュ:必ずしもそう思いません。クラシックバレエはそれらの物語を利用することも出来るし、利用しないことも出来ます。私はもっと洗練された振付師によるもっと都会風のダンスが存在すると思います。ダンスとは、素晴らしいことに、言葉なのです。それからそれを実行し、使う方法によって、それは各人の固有のものになるのです。だから、私は単にこの視点だけでダンスを限定するものではないと思います。フラン・パルレ:クラシックバレエはしばしばかなり選ばれた、エリートの観客がついています。この方式は続くのですか?ニコラ・ル・リッシュ:いいですか、私はクラシックバレエの観客は…今このことを話題にしているので、私はレパートリーダンスと表現するのが好きなのですが。何故ならよく「クラシックバレエ」という言葉を使う時、それは「モダンバレエ」さらにはコンテンポラリーダンスの対極に置きます。その概念は私を惹き付けることはありません。それは単に私が自分を現代人だと認識しているからです。それがたとえ単に言葉の感覚に過ぎないとしても。私は自分がいくつかのバレエで19世紀に創られ、上演されたものを演じても今を生きる誰かになっている感じがあります。私は心底自分が現代人だと感じます。それに、ご存じですか、パリ•オペラ座では、クラシックバレエしかないという印象の場所ですが、今日では、そのプログラムの50%が有名クリエーターの創作によるコンテンポラリープログラムなのです。彼らはみな(オペラ座に)来ました。その名前を挙げると、マッツ・エック、ピナ・バウシュ、それから他にガロッタ、ロラン・プティ、モーリス・ベジャール、最後にプレルジョカージュ。オペラ座の演目はとてもとてもオープンです…あなたの初めの質問に戻りましょう。私はクラシックバレエに来る観客は、今は少し新しくなっていると思います。私達は端境期にいるのです。なぜなら新しい観客も来ますが、他は、もしこのように形容するなら、コンテンポラリーダンスを受け入れています。私は観客層が少し拡がったと感じます。今、観客がエリートの観客であるという事実は、私個人としては、それは邪魔になることではありません。もちろんその反対です。ダンスを大衆化させることは、面白いこととは感じません。フラン・パルレ:あなたが他よりも注目している振付家はいますか?ニコラ・ル・リッシュ:私がやっていることで気に入っていることは、出会いです。正直、自分の世界でダンスをすることは、今では耐えられなくなっています。いくつかの出会いが、私はとてもとても印象の強い出会いを、例えばマッツ・エックのような振付師としたのです。私にとって彼は全く素晴らしい人ですし、ロラン・プティは私にとってとても重要な人でした。最盛期の生きていた頃のヌレエフ、ジェローム・ロビンズ、そして今は知られていないもっと若手の、例えばジェレミー・ベランガール。彼はまだ若いダンサーですが、とても美しい振り付けを創ります。フラン・パルレ:あなたは良くインタヴューを断られますが、何故ですか?ニコラ・ル・リッシュ:全くそうです。言うなれば、私が選んだ表現方法は、ダンスで、私がダンスを選んだのは、ちゃんとした理由があります:それは私が表現するのに最良の方法がこれだと思ったからです。それにインタヴューでは、しばしば私が思っている、抱きたいと思うメッセージが必ずしも文字で伝わらない印象があります。それに単純にいえば、私の表現する場所は舞台です。そこは私が自分を表現したいと思う所なのです。2006年11月インタヴュー:プリュウ・エリック翻訳:粟野みゆき
ニコラ・ル・リッシュ、バレエダンサー、パリ・オペラ座エトワール
投稿日 2006年11月1日
最後に更新されたのは 2023年5月25日