小さな幸せを大切に過ごすパリの人々に、突然悲劇が起きる。テロの襲撃によって姉のサンドリーヌは帰らぬ人となり、恋人のレナもまた心身ともに大きな傷を負う。心の支えを一挙になくしたダヴィッドだが、非情な現実は嘆く時間を与えてくれない。孤児となったアマンダの養育について考えなければならないからだ……思春期を終えたけれど自分探しの旅を続ける青年と、まだ思春期を迎える前だけれどしっかりした少女。どちらもかけがえのない人をなくし、心にはぽっかり穴があいている。ダヴィッドはアマンダを包み込むには少し頼りなく、アマンダはさびしさや悲しみを伝えきるにはまだ幼い。でも、季節は移ろい時計の針は進む。あるとき、ダヴィッドはアマンダと2人でウィンブルドン選手権のチケットを片手にイギリスを訪れる……光と風、人々の心の機微。かすかな動きをも逃さずに優しくすくいとり、「希望」という刺繍が施された織物のような映像を紡ぎ上げた、ミカエル・アース監督。目に涙をいっぱいに浮かべて”Elvis has left the building”と言うアマンダに、ダヴィッドが返す言葉に、どれだけの人が心救われるだろうか。(Mika Tanaka)