『エンジェル、見えない恋人』「存在する」とはどういうことか?「目」で見えるから、人は存在するのか?見えなければ存在しないのか?——かつて『星の王子さま』を夢中で読んだ経験のある人は、この映画が投げかける問いかけに、懐かしさを覚えるかもしれない。映画の主人公・エンジェルは、母親のルイーズ(エリナ・レーヴェンソン)だけに見える「無色透明」の存在だ。ルイーズは、生まれてきた透明の赤ちゃんを”Mon ange”(私のエンジェル)と呼び、慈しみ、育てていく。彼の存在を証明する唯一の証は、ルイーズが彼に注ぐ溢れんばかりの「愛」だ。あるとき、心配する母をよそに、エンジェルは外の世界へと飛び出す。そのとき、彼に”Bonjour ! “と声をかける少女がいた。盲目の少女・マドレーヌとエンジェルと恋の物語はこうして始まる……ハンナ・ブードロー、マヤ・ドリー、フルール・ジフリエ。幼少期、十代、成人と、3人の女優が演じるマドレーヌは、ピュアで繊細で、おとぎ話のお姫様のよう。まっすぐに伸びる赤毛とぬけるような白い肌が印象的だ。やがて、マドレーヌは手術によって視力を得て、エンジェルが見えない存在であることを知る。閉ざされた2人だけの世界に埋没していく生き方もあったかもしれない。しかし、マドレーヌがエンジェルに提案したのは、2人の存在を多くの人に知らしめる、真逆の生き方だった。最初のシーンと最後のシーンで流れるスタンダード曲”All the Way”の歌詞が、エンジェルとマドレーヌの関係そのものを物語っていて、胸がきゅんとなる。 (Mika Tanaka)監督:ハリー・クレフェン出演:フルール・ジフリエ、マヤ・ドリー、エリナ・レーヴェンソン2016年/ベルギー/79分Mon ange de Harry Cleven avec Fleur Geffrier, Maya Dory, Elina Löwensohn; 2016, Belgique, 79 mn
『エンジェル、見えない恋人』Mon ange