Crédits : © SRAB FILMS – ARTE FRANCE CINÉMA – 2022 『サントメール ある被告』シーンのほとんどは法廷の中。映画を見ているというより、裁判を傍聴しているような錯覚を覚える。裁判官は女性。被告人の弁護士も女性。そして、被告人もまた女性だ……作家のラマ(カイジ・カガメ)は、15ヶ月の赤ちゃんを海辺に置き去りにしたロランス(ガスラジー・マランダ)の裁判を傍聴するため、フランス北部の町、サントメールを訪れる。セネガルから留学のためフランスにやってきたロランスは、理性的で流暢なフランス語を話す。しかし、自分の娘・エリーズの死にふれると、それは自分のせいではなく「呪術」のせいであると弁明する。肌の色を理由に、性別を理由に、差別と偏見の刃が被告人のロランスを刺す。そしてその痛みが、傍聴席のラマを介して私たちをも刺す。法廷で発せられる心ない言葉、それは決して聞きなれないものではない。日常生活でもしばしば耳にするものだ。2015年、ル・モンドに載った1つの事件を目にしたアリス・ディオップ監督は、導かれるようにその裁判を傍聴し、実際の裁判記録をそのままセリフとして取り入れていった。セネガルにルーツを持つ女性監督が、同じくセネガル出身の女性にどのような思いを抱き、この映画の制作へと導かれたのだろうか。ディオップ監督は、「命を手放した」被告席のロランスに対して、傍聴席のラマを「命を宿す」存在として描いた。妊娠中のラマは、ロランスの放つ言葉の一つひとつを自分に寄せ、「自分は母親になれるのか」という問いを自分に突きつける。母とは何か?……ロランスの弁護士ヴォードネ(オーレリア・プティ)の最終弁論の中にその答えがあるのだろうか。まるで美しい詩を読むように語るまっすぐな視線の先に、「人を守る」というヴォードネの仕事への信念が透けて見える気がした。(Mika Tanaka)監督:アリス・ディオップ出演:カイジ・カガメ、ガスラジー・マランダ、ロベール・カンタレラ2022年/123分/フランスSaint Omer d’Alice Diop avec Guslagie Malanda, Valérie Dréville, Robert Cantarella; 2022, France, 123min
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『サントメール ある被告』 Saint Omer
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