『幻滅』原作は、オノレ・ド・バルザック。19世紀前半のフランスが舞台だ。田舎に暮らす青年リュシアン(バンジャマン・ヴォワザン)は詩人への志と貴族社会への憧れを胸に抱き、貴族の人妻ルイーズ(セシル・ド・フランス)と2人で駆け落ちし、パリへと向かう。世間知らずで庶民のリュシアンに社交界は冷たくルイーズの心も離れてしまうが、彼は一文無しから売れっ子の新聞記者として成り上がっていく……貴族が力を取り戻し奔放に振る舞う王政復古期のパリは、世論も芸術も金次第だ。「もっともらしいことは嘘でもみな真実」という編集者のエティエンヌ(ヴァンサン・ラコスト)に煽られ、自分を見失っていくリュシアン。彼の若さをもどかしく思っても、決して彼を笑うことはできないのはなぜだろう。いつまでも心から離れない台詞がある。「美のためにたたかわなければ」――リュシアンの恋人、コラリー(サロメ・ドゥワルス)の言葉だ。彼女はリュシアンがはまった罠の道連れとなり、リュシアン以上の致命傷を負った。そして、作家のナタン(グザヴィエ・ドラン)はリュシアンにこう言った。「真実でたたかえ」と。リュシアンに心無い批判記事を書かれても、ナタンは彼の良心を信じ続けていた。2人の健気さは、リュシアンに向けられた蜘蛛の糸だったのかもしれない。(Mika Tanaka)監督・脚本:グザヴィエ・ジャノリ出演 : バンジャマン・ヴォワザン、セシル・ド・フランス、ヴァンサン・ラコスト、グザヴィエ・ドラン、サロメ・ドゥワルス、ジャンヌ・バリバール、ジェラール・ドパルデュー、アンドレ・マルコン、ルイ=ド・ドゥ・ランクザン、デニッセ・アスピルクエタ、ジャン=フランソワ・ステヴナン2022年/フランス/149分Illusions perdues de Xavier Gianolli d’après Balzac avec Benjamin Vincent, Vincent Lacoste, Xavier Dolan, Cécile de France, Jeanne Balibar; 2022, France, 149 min
『幻滅』 Illusions perdues