『メグレと若い女の死』彼女はどこから来たのか?彼女に何があったのか?彼女はどんな思いを残したのか?舞台は1953年のパリ。若い女性の刺殺体がみつかる。身につけているわずかな手がかりは、彼女の暮らしが決して裕福ではないことを物語る。しかし、血で真っ赤に染まったドレスは、庶民では手に入れることのできない高級品だ。酒と料理が大好き、大きな体と緻密な捜査……多くの推理小説ファンを夢中にさせてきたメグレ警視シリーズ。今回の映画化でジュール・メグレを演じるのは、ジェラール・ドパルデューだ。パトリス・ルコント監督が創り上げる静けさの漂う映像が謎をいっそう深めていく。なぜメグレはここまで事件にのめり込むのか。そこには彼と妻が共有する悲しい過去と関係がある。メグレの捜査がすすむにつれ、大都会パリの光と影が◯くっくりと浮かび上がり、若い女性の浮かばれない心が少しずつ天国へ近づいていくように感じられる。「陰惨たる闇から落ちてきたこの静かな意志の塊」。ルコント監督は、メグレを演じるドパルデューをマラルメの詩の一節にたとえる。名監督がとらえる名俳優の演技は圧巻だ。そして、ふと気づく。ジェラール・ドパルデュー自身もまたメグレのように、悲しい過去を抱えているのだということを。子を失う親のやるせなさ、それを知るドパルデューだから彼の演じるメグレはこんなにも強い存在感を放つのだろうか。(Mika Tanaka)監督:パトリス・ルコント原作:ジョルジュ・シムノン出演:ジェラール・ドパルデュー、ジャド・ラベスト、メラニー・ベルニエ、オーロール・クレマン、アンドレ・ウィルム2022年/89分Maigret de Patrice Leconte avec Gérard Depardieu, Jade Labeste, Mélanie Bernier, Clara Antoons; 2022, France, Belgique, 89 min
『メグレと若い女の死』 Maigret