海の底のような青、りんごのような赤、夕陽のようなオレンジ……美しい色彩を、簡素な輪郭が包み込んでいるように見える。7月13日から開催されているのは、ベルギー出身のジャン=ミッシェル・フォロンの作品の数々。日本で30年ぶりの回顧展には、初期のドローイング、水彩画、版画、ポスター、晩年に手がけた立体作品など、約230点が並ぶ。展示室に入ると、1970年代にフランスのテレビ局で使用されたフォロンの短編アニメーションが優しいメロディーに乗って流れる。のびやかな映像の奥底に漂う哀愁、それこそが、世界中の人を惹きつけてやまないフォロンの魅力なのだろう。そのまま進んでいくと、青字に赤の「?」が目に飛び込む。タイトルは「われ思う。さりとて何を?」(Je pense mais à quoi?) 。緊張が一瞬でほどけ、微笑んでしまう。そんなお茶目な一面があるかと思うと、現代社会に警鐘を鳴らす作品も。都市化が進む中、取り壊されてしまった「大切な何か」を、きっと彼は形に残そうとしたのだろう。描くことで、あるいは彫刻に挑むことで、私たちが決して忘れることのないように。