ヒューマントラストシネマ有楽町 03-6259-8608
新宿シネマカリテ 03-3352-5645
ヒューマントラストシネマ渋谷 03-5468-5551
Kino cinema 立川高島屋 S.C.館 042-512-5162
12月8日(金)より

『VORTEX』
横長のスクリーンが2つに分割され、画面が左右に表示される。「スプリットスクリーン」と呼ばれるこの手法で映画は始まる。2つの視点で、私たちは老夫婦に訪れた最期の日常を追体験するのだ。
夫(ダリオ・アルジェント)は心臓疾患、妻(フランソワーズ・ルブラン)は認知症を患っている。夫の職業は映画評論家。「夢と映画」をテーマに新作を執筆しているが、妻の予測不能な行動に振り回され、なかなか集中することができない。妻は、元精神科医。わずか3週間で坂を転げ落ちるように症状は悪化し、もはやその面影は感じられない。離れて暮らす息子(アレックス・ルッツ)が介護施設の入居をすすめるが、夫は「この家にはすべてがある。過去を捨てたくない」と拒絶する。「この家は悪夢だ!」と叫び声を上げるほどに追い込まれているにも関わらず。
若者向けの過激な描写で知られるギャスパー・ノエ監督だが、彼が今回挑んだテーマは、「病」と「死」、それらと向き合う「家族」だ。彼自身が脳出血のため生死の境をさまよったこと、コロナ禍のロックダウン中に数々の日本映画に触れたこと(溝口健二、成瀬巳喜男、木下惠介、黒澤明、篠田正浩監督等の作品)は、この作品にさらなる深みを与えるこ とになったのだろう。死へと向かう妻と夫、やんちゃで生命力溢れる孫……老いと幼さが映像に強烈なコントラストを与える。映画の最後で、孫の質問に答える息子の言葉が印象的だ。
(Mika Tanaka)
監督・脚本:ギャスパー・ノエ
出演 : ダリオ・アルジェント、フランソワーズ・ルブラン、アレックス・ルッツ
148分/2021年/フランス
À partir du 8 décembre
VORTEX de Gaspar Noé avec Dario Argento, Françoise Lebrun, Alex Lutz; 2012, France, 148 min
https://synca.jp/vortex-movie/
シネスイッチ銀座
新宿武蔵野館
アップリンク吉祥寺
Kino cinema横浜みなとみらい
12月8日(金)より

『Winter boy』
「今の僕は頭で考えすぎてる。だから身体だけを使って羽みたいに軽くなりたい」
主人公のこの言葉に、自分の思春期を思い出す人もいるではないだろうか。
高校の寄宿舎で暮らす17歳のリュカ(ポール・キルシェ)は、父が交通事故に遭ったという知らせを受ける。取り乱す母・イザベル(ジュリエット・ビノシュ)、パリから駆けつけた兄・カンタン(ヴァンサン・ラコスト)、集まった親族たち……時間が矢のように過ぎた後、リュカの心に喪失感と共に多くの感情がいっぺんに押し寄せてくる。
気持ちを切り替えるために、リュカは、兄・カンタンの暮らすパリに向かう。プロのアーティストをめざすカンタンは、昼は駐車場係として働き、忙しい日々を送っていた。リュカはカンタンのルームメイトのリリオ(エルヴァン・ケポア・ファレ)と過ごしながら、自分の心の傷をみつめる。
父は自分のことを愛してくれていたのだろうか。自分に失望していたのではないだろうか。ひょっとして父の死は事故ではなく……愛されている実感のないまま、家族を失ってしまうやるせなさ。17歳であればなおさらだろう。クリストフ・オノレ監督は、自分の少年時代の記憶をもとに映画の脚本を書き、本人自らリュカの父親役として出演している。自分自身の過去と真摯に向き合うために。オノレ監督の思いとポール・キルシェの演技が呼応しながら、私たちの心に迫ってくる。(Mika Tanaka)
監督・脚本:クリストフ・オノレ
出演:ポール・キルシェ、ジュリエット・ビノシュ、ヴァンサン・ラコスト、エルヴァン・ケポア・ファレ
125分/2022年/フランス
À partir du 8 décembre
Le lycéen de Christophe Honoré avec Paul Kircher, Juliette Binoche, Vincent Lacoste, Erwan Kepoa Falé, Anne Kessler; 2022, France, 125 min
ヒューマントラストシネマ有楽町 03-6259-8608
kino cinéma立川髙島屋S.C.館 042-512-5162
MOVIX昭島 050-6861-0325
12月1日(金)より

『ショータイム!』
この映画のモデルとなった青年・ダヴィッド・コーメットはそのとき32歳。祖父の代から守ってきた農場の経営が立ち行かなくなり、途方に暮れていた。しかし彼は、「農場でキャバレーを開く」というとんでもない構想を抱き、実現し、経営難を見事に救ったのだ。
「農場にキャバレー……この組み合わせは、フィクションをつくる者であってもそんなに簡単に思いつくものではありません。普段は謙虚で控えめに見える、農業に従事する人たちがこの奇抜なアイデアを思いつき、そして成し遂げたのです」。ジャン=ピエール・アメリス監督はそう振り返る。フランスの農業が置かれている状況、従事する若者たちの苦難、ときに自殺にまで追い込まれる人がいるという事実。アメリス監督は、そのことを多くの人に伝えるべくこの映画を完成させた。

きらびやかなショーの世界と農家の日常。相反する景色と相反する人々が少しずつ距離を縮め、美しいハーモニーとなって流れていく。仔牛が生まれるシーンが、まるでショータイムのように輝きを放つ瞬間は感無量だ。
地味な制服で働く短髪の店員が華麗なドラァグクイーンとしてダリダのナンバーを歌い始めたり、耳が聞こえないけれどそんなハンディキャップを感じさせないマジシャンが登場したり……個性豊かな彼らはすべて架空の登場人物。アメリス監督は、実話という太い軸に、多様性あふれるフィクションを添える。それはまるで、どっしりとしたクリスマスツリーに飾るオーナメントのようにキラキラとして愛おしい。
ダヴィッド(アルバン・イワノフ)に大きな影響を与えるダンサー・ボニーを演じるのは、サブリナ・ウアザニ。脚本は、彼女を念頭に置いての当て書きだ。低くてハスキーな声も、しなやかなポールダンスも、がさつなようでいて実は繊細な心も、すべてはサブリナ・ウアザニだけが放つことのできる魅力だ。
フランスでこの映画が公開されると、ダヴィッドと同じように農場にキャバレーを開く人たちが出現したそうだ。映画は、人の心に希望を与える。そして、生きる術を与えてくれることをあらためて知る。 (Mika Tanaka)
監督:ジャン=ピエール・アメリス
出演:アルバン・イワノフ、サブリナ・ウアザニ、ベランジェール・クリエフ、
ギイ・マルシャン、ミシェル・ベルニエ
2022年/109分/フランス
À partir du 1er décembre
Les folies fermières de Jean-Pierre Améris avec Alban Ivanov, Sabrina Ouazani, Michèle Bernier, Bérengère Krief; 2022, France, 109 min
https://countrycabaret.ayapro.ne.jp/
シネ・リーブル池袋
上映中

『私がやりました』
「殺したのは私です」
いったい誰が、覚えもない殺人の罪を被るというのだろう?
現実世界では考えられないことが映画の中では起こり得る。そして、自分こそが犯人だと、犯罪者であることを主張し始めるのだ。
舞台は1935年のパリ。女性には参政権がなく、自分の銀行口座を持つ自由も許されなかった男性優位の時代に手を取り合って生きる2人の女性――女優のマドレーヌ(ナディア・テレスキウィッツ)と弁護士のポーリーヌ(レベッカ・マルデール)の生活は、家賃を払えない状態が続くほどの困窮ぶり。そんなとき、映画プロデューサー殺人の容疑をかけられたマドレーヌに、ポーリーヌは一世一代の筋書きを提案する。
男性の力にすがることなく、女性自らの力で名声を勝ち取ったマドレーヌとポーリーヌは一躍有名人に……しかしそこで話は終わらない。真犯人のオデット(イザベル・ユペール)の登場から、コメディがさらに格上のコメディへ。フランソワ・オゾン監督が描く女性たちは、一筋縄ではいかないところが魅力的。コメディという形式を通して届けられるメッセージが、今日という社会を生き抜くための秘訣を教えてくれる。映画で思い切り笑ってすっきりしたら、前を向いてしっかりと生きていこう。(Mika Tanaka)
監督・脚本: フランソワ・オゾン
出演: ナディア・テレスキウィッツ、レベッカ・マルデール、イザベル・ユペール、
ファブリス・ルキーニ、ダニー・ブーン、アンドレ・デュソリエ
2023年/103分/フランス
À l’écran
Madeleine de Francois Ozon avec Nadia Tereszkiewicz, Rebecca Marder,Isabelle Huppert, Dany Boon, André Dussolier, Fabrice Luchini; 2023, France, 103 min
下高井戸シネマ
12月9日(土)〜15日(金)
『ジャン=リュック・ゴダール 反逆の映画作家(シネアスト)』