ヒューマントラストシネマ有楽町 03-6259-8608新宿武蔵野館 03-3354-5670シネマ・ジャック&ベティ 045-243-98006月2日(金)より![]()
『苦い涙』 Peter von Kant©Carole BETHUEL_Foz『苦い涙』舞台は1972年の西ドイツ、ケルン。映画監督として活躍するピーター・フォン・カント(ドゥニ・メノーシェ)を3年ぶりに訪れた女優のシドニー(イザベル・アジャーニ)は、ビーターに1人の青年・アミール(ハリル・ガルビア)を紹介する。不幸な生い立ちを健気に語るアミールを前にピーターはカメラを回し、23歳の若者の微細な表情の変化にたちまち魅せられる。「君をスターにすると約束する」と宣言したピーターは、アミールを自分の家に迎え入れ忠実な助手のカール(ステファン・クレポン)と3人で暮らし始める。愛とはいったい何であろうか。人は孤独だから愛を欲するのだろうか。愛されることと愛すること、どちらがより苦しいのだろうか……重いテーマの室内劇を軽やかに描くフランソワ・オゾン監督の最新作は、彼が敬愛するドイツのライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督の『ペトラ・フォン・カントの苦い涙』(1972年)のリメイク版。オリジナル版に出演していたハンナ・シグラが、本作でピーターの母・ローズマリーを演じる。誕生日に醜態をさらけ出し無防備に泣きじゃくる息子を彼女の子守歌が優しく包み込むときの温もりが、スクリーン越しに伝わってくる。そんな大女優と堂々と共演し華麗に歌うイザベル・アジャーニとの久々の再会に胸躍らせた人も少なくないのでは。ピーターの娘・ガブリエル(アマント・オディアール)のみずみずしさと、無言で多くを語るカールの存在感も忘れ難い。(Mika Tanaka)監督・脚本:フランソワ・オゾン出演:ドゥニ・メノーシェ、イザベル・アジャーニ、ハリル・ガルビア、ステファン・クレポン、ハンナ・シグラ、アマント・オディアール2022年/85分/フランスÀ partir du 2 juinPeter von Kant de François Ozon avec Denis Ménochet, Isabelle Adjani, Hanna Schygulla, Stefan Crepon; 2002, France, 85 minヒューマントラストシネマ渋谷 03-5468-5551アップリンク吉祥寺 0422-66-5042新宿K’s cinema 03-3352-24716月2日(金)より(K’cinemaは6月3日より)![]()
『Rodeo ロデオ』 Rodéo© 2022 CG Cinéma / ReallyLikeFilms『Rodeo ロデオ』「いいかげんにしなさい!」育児で追い込まれる母親がこどもに怒りをぶつける。ありふれている一場面に見えるが、彼らの状況は決してありふれているとは言えない。母親の名はオフェリー(アントニア・ブレジ)。夫のドミノ(セバスティアン・シュローダー)は服役中だが、離れた場所で母子を支配し監視の目を緩めない。外部との接点は、週に1回、ジュリア(ジュリー・レドゥル)が買い物の品を届けるときだけだ。バイクだけが支えのジュリアにとって、バイクを通して知り合った仲間たちは唯一の居場所。そして彼らのボス・ドミノを紹介され、バイクの窃盗に手を染めることになる。仲間のカイス(ヤニス・ラフキ)はジュリアに好意を寄せるが、ジュリアは恋人という関係に興味を示さない。彼女が心を許すのは、週に1回、わずかに会話を交わす幼いキリアン(コーディ・シュローダー)と母親のオフェリーだけだ。ほんのひととき、外出禁止の2人をバイクに乗せたジュリアは、爽快な風に吹かれながら母子と”自由”を共有する。画面いっぱいに解放感が漂う。しかし、ジュリアがどんなにオフェリーを目覚めさせようとしても、オフェリー自身は夫の支配から逃れようとはしない。そしてジュリアもまた、何かに束縛されているかのように、逃れようのない闇へ突き進んでいく……ジュリアの辿り着く場所は、映像としては美しいが物語としてはあまりにも悲しい。キリアンが”Maman!“と母親を呼ぶラストシーンに心救われる。(Mika Tanaka)監督・脚本 : ローラ・キヴォロン出演:ジュリー・ルドリュー ヤニス・ラフィ アントニア・ブレジ2022年/105分/フランスÀ partir du 2 juinRodéo de Lola Quivoron avec Julie Ledru, Yanis Lafki, Antonia Buresi, Cody Schroed; 2022, France, 105 min新宿ピカデリー 050−6861−3011ヒューマントラストシネマ有楽町 03-6259-8608上映中![]()
La brigade© Odyssee Pictures - Apollo Films Distribution - France 3 Cinéma - Pictanovo - Elemiah- Charlie Films 2022『ウィ、シェフ!』舞台はフランスの港町、ダンケルク。「私には目標がある。自分のレストランを持ち、自分の思う通りの料理を作ること」誇り高きカティ・マリーは、一流レストランのシェフの命令に対して 「ウィ、シェフ」と従順に応えることができない。自分を認めてくれる「もっといい場所」を求めてたどり着いたのは、移民支援施設のまかないの仕事だった。「住み込みで1ヶ月1450ユーロ、開業資金を貯めるまでの辛抱」と親友のファトゥ(ファトゥ・カバ)に言われたものの、たった1人で食べ盛りの子供たちの食事を時間内に用意するのは至難の業。施設長のロレンゾ・カルディ(フランソワ・クリュゼ)は「施設の子供たちをアシスタントにしては」と提案する。児童養護施設で育ったカティと、いつ本国に送還されてもおかしくない状況にいる少年たち。彼らの奥底にある何かが呼応し、大きな「何か」が始まろうとしていた……実際 にパリの移民支援施設で暮らす若者たち300人以上がオーディションに参加し、この映画の役を勝ち取った。「移民の子供たちがフランスで安定した生活を手に入れるため、調理師として育成する」という取り組みは、実在のシェフ、カトリーヌ・グロージャンによるもの。カティがなぜシェフに逆らってでも自分を貫こうとしたのか、 なぜマルセル・プルーストを愛するのか、その鍵はカトリーヌ・グロージャン自身がカメオ出演する短いワンシーンに隠されている。映画の後半で少年たちが元気よく応える「ウィ、シェフ!」の響きに、こちらも笑顔でいっぱいになる。(Mika Tanaka)監督・脚本:ルイ=ジュリアン・プティ出演:オドレイ・ラミー、フランソワ・クリュゼ2022年/97分À l’écranLa brigade de Louis-Julien Petit avec Audrey Lamy, Francois Cluzet, Chantal Neuwirth, Fatou Kaba; 2022, France, 97 min配給: アルバトロス・フィルム新宿武蔵野館 03-3354-5670シネスイッチ銀座 03-3561-0707アップリンク吉祥寺 0422-66-5042YEBISU GARDEN CINEMA 0570-783-715上映中![]()
『それでも私は生きていく』 Un beau matin『それでも私は生きていく』セーヌ川の岸辺。木洩れ陽の下に佇む母と娘。娘のアイスクリームを「味見させて」とねだる母の名はサンドラ・キンツレー(レア・セドゥ)。アイスクリームを受け取って走り出す母を追いかける娘の名はリン(カミーユ・ルバン・マルタン)。どこにでもいそうな、幸せな家族のひととき……サンドラの仕事は通訳者。誰かの言葉を誰かに伝える。私生活では、視力と記憶が徐々に失われていく病気の父・ゲオルグ(パスカル・グレゴリー) の介護を担い、シングルマザーとして8歳の娘リン の成長を見守る。サンドラの毎日は忙しい。自分の気持ちを吐き出す余裕はほとんどない。哲学の教師だった父は自分が尊敬していた頃の面影から少しずつ遠ざかっていく。あるとき、父の教え子に「お父様はお元気ですか」と声をかけられた瞬間、サンドラは堪えきれずに泣き顔を見せてしまう。他界した夫の友人・クレマン(メルヴィル・プポー)との関係に、自分が素顔になれる瞬間を見出すサンドラ。しかし、妻子にも誠実であろうとする彼は、サンドラに喜びと同時に苦しみも与える。”それでも”サンドラの忙しい毎日は相変わらず続く。 消えかけていた父の面影を書棚でみつけるとき、あきらめかけた愛を取り戻すとき……サンドラは、日々の小さな幸せをひとつひとつ、野に咲く花を愛おしく摘み取るように手にとっていく。フィルムの質感を大切に撮られた映像は登場人物を包み込むようにあたたかく、父と別れた後も家族としての関係を大切にする母フランソワーズ(ニコール・ガルシア)の存在も忘れがたい。モンマルトルの丘の上でクレマンがリンに語る言葉は、生きづらさを抱え”それでも“生き続ける人たちに送る、ミア・ハンセン・ラブ監督からのメッセージなのかもしれない。(Mika Tanaka)監督:ミア=ハンセン・ラブ出演:レア・セドゥ、パスカル・グレゴリー、メルヴィル・プポー、ニコール・ガルシア、カミーユ・ルバン・マルタン2022年/112分/R-15+À l’écranUn beau matin de Mia Hansen-Løve avec Léa Seydoux, Pascal Greggory, Melvil Poupaud, Nicole Garcia, Camille Leban Martins; 2022, France, 112 min R-15+新宿武蔵野館 03-3354-5670アップリンク吉祥寺 0422-66-50426月1日(木)まで![]()
Sur l’Adamant© TS Productions, France 3 Cinéma, Longride - 2022『アダマン号に乗って』アダマン(L’Adamant)は、セーヌ側に浮かぶ表面積650平方メートルの木造建築の船。エンジンは搭載されていないのでクルーズはできないけれど、ここに集まる人たちの心は出会いを楽しむ旅人のようにきらめいている。船が停泊している場所は、リヨン駅に近い、ケ・ドゥ・ラ・ラペ(Quai de la Rapée)。人々の口調はややゆっくりとしていて、穏やか。木々の緑が揺れ、水面がキラキラと光る中、絵を描いたり、歌を歌ったり、カフェタイムを楽しんでいる。ミーティングでは新しいイベントの企画の提案や話し合いが行われる。コロナワクチンが体にどんな作用を及ぼすのかを知りたいと、声を上げる人たちも……カメラはそのようすを静かにとらえる。ドキュメンタリー映画の登場人物となった彼らの表情は自然で、映像に柔らかく溶け込んでいる。映画を見ている途中でふと気づく。アダマンは、精神科医療を受ける患者たちのデイケアセンターであることを。映画に登場する彼らがあまりにもさりげなくて、あまりにも当たり前にようにふるまっていて、彼らが「患者」という立場であることを一瞬忘れてしまうのだ。「多くの準備をせず、偶然に身を任せて撮影を行う」ニコラ・フィリベール監督の姿勢が生み出した映像には、被取材者たちへの敬意が感じられ、その敬意を受け止める彼らには被取材者たちへの敬意が感じられる。そしてその敬意を受け止める彼らは、監督に信頼のまなざしをまっすぐに向けている。それ故だろうか。世間の無理解や誤解にさらされ不自由を強いられがちな患者たちが「映画に出演する」プロセスを経て、1人の人間としての尊厳を取り戻しているように感じられる。フィリベール監督が精神科医療について撮った作品は、本作が2度目となる。1995年に撮影した『すべての些細な事柄』で出会った臨床心理学者のリンダ・ドゥ・ジテールがアダマン号で勤務することとなり、本作誕生のきっかけとなった。今でもアダマン号に通う彼女は、”映画撮影”というイベントによって現場が生き生きと輝き出し、スタッフや患者たちに影響を与えたことを実感したという。”Je suis guéri ! (病気が治った!)“ と明るい声を上げた患者も。「カメラを向けるということは、対象者を威嚇し恐怖心を抱かせる」と知るフィリベール監督は、アダマン号を訪れる人々に対して、「撮影依頼を自由に断ることができる」よう細心の注意を払い、100時間の素材を取り上げた。最終的に109分となった映画は、撮られることを選ばなかった人々、撮られた映像を使われなかった人々の思いをも背負っているのかもしれない。”精神医療”をテーマにした”ドキュメンタリー”がベルリン国際映画祭で金熊賞という栄誉に輝いたこと、その映画の共同制作に日本の映画配給会社「ロングライド」が名を連ねていること……「難しい」ことは決して「不可能」なことではないとあらためて知る。(Mika Tanaka)監督:ニコラ・フィリベール2022年/フランス・日本/109分配給: ロングライドÀ l’écranSur l’Adamant documentaire de Nicolas Philibert ; 2022, France, 109 minアップリンク吉祥寺 0422-66-50426月1日(木)まで追悼 ジャン=リュック・ゴダール映画祭1960年代と80年代の作品を中心に全9本をラインナップ。※日替わり上映『小さな兵隊』Le petit soldat『カラビニエ』Les Carabiniers『はなればなれに』Bande à part『ウィークエンド』Week-end『パッション』Passion『カルメンという名の女』Prénom Carmen『ゴダールのマリア』Je vous salue, Marie『ゴダールの探偵』Détective『ゴダールの決別』Hélas pour moiww.j!gfilmfes.jpシネスイッチ銀座 03-3561-0707新宿武蔵野館 03-3354-5670上映中(新宿武蔵野館は6月1日まで)![]()
Les passagers de la nuit© 2021 NORD-OUEST FILMS – ARTE FRANCE CINÉMA『午前4時にパリの夜は明ける』「”夜の乗客”の皆さん、5月11日になりました」。深夜ラジオで、ヴァンダ(エマニュエル・ベアール)の穏やかな声が午前0時を告げた。時は1981年。ミッテラン大統領が就任し、変革の気配が漂い始めたパリから物語は始まる。そして1984年。あるアパートの1室で父と娘が神妙な面持ちで話をしている。娘の名はエリザベート(シャルロット・ゲンズブール)、2人の子供の母親だ。夫は他の女性と暮らし始め、これからどうやって子供たちと生きていけばよいのか、途方に暮れている。やがてラジオ番組“夜の乗客”のパーソナリティ・ヴァンダと出会ったエリザベートは、リスナーからの電話を取り次ぐ受付業務を任されるように。あるとき番組ゲストとして局を訪れたタルラ(ノエ・アビタ)の身の上を知ったエリザベートは、彼女を家に招き入れる……深夜ラジオの存在感が今よりもずっと大きく、今よりももっと多くの人たちがラジオを必要としていたあの頃。眠れない夜の枕元に置いたラジオを通して、やるせないそれぞれの心が緩くつながっていたあの頃。1975年生まれのミカエル・アース監督が再現した1980年代の空気は、今よりも少し時の流れが緩やかで、色彩には温かさが感じられる。朝もやにかすむ自由の女神とその先に見えるエッフェル塔の何と美しいこと!1980年代を代表する女優のひとりパスカル・オジェとの再会に、懐かしさがこみあげた人もいるのではないだろうか。エリック・ロメール、ジャック・リヴェット、ジョー・ダッサン……ちりばめられた数々のオマージュが放つ音と光に埋もれながら、過去に置いてきたもの、取り戻したいものを考えてみたくなった。(Mika Tanaka)監督・脚本:ミカエル・アース出演:シャルロット・ゲンズブール、キト・レイヨン=リシュテル、ノエ・アビタ、メーガン・ノータム、エマニュエル・べアール2022年/111分/R-15+À l’écranLes passagers de la nuit de Mikhael Hers avec Charlotte Gainsbourg, Quito Rayon-Richter, Noée Abita, Emmanuelle Béart; 2022, France, 11min, R-15下高井戸シネマ 03-3328-10086月3日(土)〜23日(金)ジェラール・フィリップ生誕100年映画祭※日替わり上映

東京で上映されるフランス語圏映画Les films en français à Tokyo
投稿日 2018年1月31日
最後に更新されたのは 2023年5月26日