水曜日 2004年7月7日
べノ・ベッソン演出『コーカサスの白墨の輪』(B.ブレヒト作) 松原道剛 瞳を閉じた幼子が女性の手に抱かれている姿がパステル調で写実的に描かれた幕が上がると、三方を隙間のある黒い縦長のシートで囲われた舞台には、両袖から建物の一部の入口だけがこの中庭に迫り出してきたように、天幕でつくられた下手側の教会門と上手側の宮殿のアーチ門があって、グルジアの民族的な衣装を纏った多くの人々が、それらからせわしなく出入りしている。 コルホーズの序章がカットされて、それらの人々のなかから歌手というより数人のコロスが出てきて、声を合わせて囁くように、これから始まるふとっちょの侯爵カツベキによる謀反の物語の状況を説明する。原作では劇中劇の始まりで、あまりにあっけないと思える領主暗殺の謀反は、もちろんこの作品の主題ではない。 そんななかで、マスクを被った役者たちが、交替して受け持つコロスたちの囁きやら、カツベキの領主に対する幇間ぶりや纏足を履いたような爪先歩きやら、また医者や建築家の職業的了見の狭隘さやら、そして領主暗殺後の逃避のために財産目録ばかり点検して幼子である自分の子供を置き去りにしてしまう領主夫