話してあげて、戦や王さま、象の話を
マティアス・エナール著
関口涼子訳
Parle-leur de batailles, de rois et d’éléphants de Mathias Énard
河出書房新社
価格:本体1800円+税
ISBN978-4-309-20605-9
ルネサンスの巨匠、ミケランジェロのオスマン帝国滞在という史実を基にした小説。若き日のミケランジェロはオスマン帝国のスルタンから、金角湾に架ける橋の設計を依頼される。イスタンブルに上陸したミケランジェロは、街を散策し、そこで様々な発見をしていく。
この小説は、芸術家の創造の過程を追いながら、芸術にまつわる様々な問題を扱っている。ただ、この小説は、深いテーマを内包しつつも、誰が読んでも楽しい作品となっている。主人公ミケランジェロのイスタンブル体験はユーモアに満ち、彼を取り巻く個性的な登場人物たちは、時にコミカルな、時にほろりとさせるエピソードを繰り広げる。また、イスタンブルの魅力的な描写がミケランジェロの冒険に花を添えている。純粋な読書の喜びを味わうことのできる作品である。
人生は短く、欲望は果てなし
パトリック・ラペイル著
東浦弘樹、オリヴィエ・ビルマン訳
La vie est brève et le désir sans fin de Patrick Lapeyre
作品社
価格:本体2600円+税
ISBN978-4-86182-404-3
フランスの三大文学賞の一つ、フェミナ賞を受賞したパトリック・ラペイルの作品。
パリに住むさえない翻訳家、ブレリオ、ロンドンに住むアメリカ人証券マン、マーフィー、パリとロンドンを行き来し、ふたりを翻弄する自由奔放な女性、ノーラ。この三人を主人公に、英仏海峡をはさんで奇妙なラブストーリーが展開していく
波乱万丈なストーリーに沿って、揺れ動く男女の心理が克明に描かれていく作品である。本書の大きな魅力の一つは、ユーモラスで軽快であると同時に詩的でもある文体にある。地名・人名などの固有名詞や、医学、科学、精神分析学、神学などの専門用語が多用されているが、ペダンティスムに落ち入ることなく、かえって独特のユーモアが生み出されているのだ。奇妙でありながら、魅力的な長編恋愛小説である。
Pourquoi les Françaises ont-elles souvent des enfants hors mariage?
Études réunies par Takako Inoue
フランス女性はなぜ結婚しないで子どもを産むのか
井上たか子編著
勁草書房
価格:本体2400円+税
ISBN978-4-326-65378-2
先進国の中でも高い出生率を誇るフランスは、離婚率や結婚せずに子どもを産む割合、「婚外子率」の高い国でもある。本書は日仏の家族の変容とそれに対応する家族政策に焦点を当て、人口学、憲法、ジェンダーなど、各分野の専門家が、日仏の家族観、結婚制度、国の支援などを比較し、フランス女性の実情を明らかにしたものである。巻末には、本書の著者たちと上野千鶴子による全体討論を収録している。
少子化、高齢化、人工中絶、生殖技術、養子縁組、婚外子差別、税制、育児休暇、子ども手当、男女差別、性別分業など、様々な争点から「結婚しないで子どもを産む」ことについて論じられる。結婚、出産、子育てに関する様々な問題が浮上している日本において本書は、問題の解決策を具体的に考えるきっかけを与えてくれる。
郊外少年マリク
マブルーク・ラシュディ著
中島さおり訳
Le petit Malik de Mabrouck Rachedi
集英社
価格:本体1800円+税
ISBN978-4-08-773481-2
新進のフランス人作家、マブルーク・ラシュディの小説。
5歳から26歳までの全22章のそれぞれ独立した短編としても楽しめる各章で構成されていて、郊外の団地にうまれたアルジェリア系移民の少年マリクが様々な出来事を経験しながら成長していく姿を追いかける。
郊外が舞台となる本作では、貧困、差別、暴力、犯罪など、フランスの郊外が抱える問題が浮き彫りにされながら話が展開する。しかし、作者は様々な社会問題を深刻に告発するのではなく、軽快で生き生きとした文章で、それらの問題を笑いに包んでみせる。作者の人に対する温かな眼差しが作品に溢れているのだ。
厳しい現実に負けることなく、強く生きる少年の姿がユーモアたっぷりに描かれていると同時に、読者の胸に残る独特の詩情をたたえた青春小説である。
僕の知っていたサン=テグジュペリ
レオン・ウェルト著
藤本一勇訳
Saint-Exupéry tel que je l’ai connu… de Léon Werth
大月書店
価格:本体2000円+税
ISBN978-4-272-60050-2
レオン・ウェルトが友人のサン=テグジュペリについて語ったテキストや、手紙、写真、イラストなどをまとめた作品。レオン・ウェルトはフランスのジャーナリスト、小説家、美術評論家である。『星の王子さま』の巻頭にある献辞に、「小さな男の子だった時のレオン・ウェルトに」とあるように、二人は固い友情で結ばれていた。
『僕の知っていたサン=テグジュペリ』は単なる思い出話や、称賛文ではなく、「中断されてしまった対話」である。ウェルトはときにサン=テグジュペリの思想に厳しい批判を加えている。このことは、お互いの違いを認めた上で、相手を受け入れるという、真の意味での友情を二人が築いていたことの証明といえる。レオン・ウェルトという個性豊かな、優れた人物だからこそ書くことのできた友情の記録である。