Crédits : © 2024 – FOZ – FRANCE 2 CINEMA – PLAYTIME 『秋が来るとき』真実は人を幸せにすることができるのか?正義とは、いったい何なのだろうか?この深い問いかけの舞台となったのは、フランソワ・オゾン監督が子供時代に休暇を過ごしたブルゴーニュ地方。コーヌ=シュル=ロワール 近郊ドンジーという町にある秋の森から物語は始まる。音、光、匂い、色彩……これから訪れる冬の気配をはらみつつも、控えめながら独特の 美しさを放つ季節、秋。ミシェル(エレーヌ・ヴァンサン)は、パリから休暇で里帰りする1人娘ヴァレリー(リュディヴィーヌ・サニ エ)と孫のルカのため、キノコを採りに森を訪れる。しかし母の思いとは裏腹に、帰省したヴァレリーの態度はそっけない。事務的な会話をし ながらヴァレリーがキノコ料理を口にしたそのとき、運命は思わぬ方向へ舵を切り始める……秋という季節を、秘密という言葉を胸に秘め、繊 細な心の動きを表現したエレーヌ・ヴァンサンの存在感が素晴らしいのだが、この映画には、もう1人の主役がいる。そう、途中からほとんど 登場しないヴァレリーが、そこにいないはずなのに確かに存在するのだ。1943年生まれのエレーヌ・ヴァンサンが空と大地から放たれる大 きな秋の空気を表現しているのに対し、Ludivine Sagnier 1979年生まれのリュディヴィーヌ・サニエは、色づく葉や木の実といった、小さな秋を連想させ る。結婚の先に離婚があり、年を経ても、いや年を経てなお消えない母親との確執が横たわり、育て上げるまでに多くの時間とお金を必要とす る息子がいるという現実は、彼女をどれだけ追い込んでいたのだろう。好感をもたれにくいこの役を演じることができたのは、リュディヴィー ヌ・サニエだったからではないだろうか。「8人の女たち」や「スイミング・プール」(いずれもオゾン監督作品)の頃から彼女を知っている 人は、この映画をより深く楽しめるかもしれない。公開に先立ち、横浜フランス映画祭2025で上映されたときに来日したのは、オゾン監督 ではなく彼女だった。スケジュールの都合もあったのかもしれないが、リュディヴィーヌ・サニエその人が観客の前に現れたことで、この映画 にもう1つの命が吹き込まれたような気がする。(Mika Tanaka)
監督・脚本:フランソワ・オゾン監共同脚本:フィリップ・ピアッツォ出演:エレーヌ・ヴァンサン、ジョジアーヌ・バラスコ、リュディヴィーヌ・サニエ、ピエール・ロタン2024年/フランス/103分日本語字幕:丸山垂穂Quand vient l’automne de François Ozon avec Hélène Vincent, Josiane Balasko, Ludivine Sagnier, Pierre Lottin; 2024, France, 103 min

『秋が来るとき』 Quand vient l’automne
