『コルドリエ博士の遺言 4Kレストア』映画の冒頭で登場するのは、ジャンルノワール監督本人。テレビのスタジオに入り、台本が用意された席に座り、マイク テスト。こうして映画の本編が始まる……新しく登場した「テレビ」というメディアのために企画されたこの作品は、従来の映画と違ったスタイルで製作された。複数のカメラで同時撮影を行う「マルチプルカメラ」という手法によって、ルノワールはカメラに向かって演技しなければならなかった俳優たちを解放しようと試みる。そして舞台で演じる芝居のような、綿密な打ち合わせを行い、この『ジキル博士とハイド氏』のルノワール版が完成した。優雅で洗練された動き、しかしそれは暴力であり、人々を傷つける動きなのだ。オパール氏を演じるジャン=ルイ バロー、そして正義感と友情をその体いっぱいに表現する公証人ジョリ氏を演じるミッシェル・ヴィトル。”悪”の象徴をこの目に留めたはずなのに、見終えた後に残る”美”の余韻。いったいどんな魔法にかかったというのだろうか。 「芸術としての映画」というのは、この作品のためにある言葉なのかもしれない。(Mika Tanaka)出演:ジャン=ピエール・カッセル クロード・ブラッスール クロード・リッシュ ジャン・カルメ1962年 / モノクロ/ 107分Le Testament du docteur Cordelier version remastérisée de Jean Renoir avec Jean-Louis Barrault, Teddy Bilis,Michel Vitold, Micheline Gary; 1961, France, N/B, 95 min『捕えられた伍⻑ 4K レストア』この人はあきらめない。失敗して、連れ戻されて、懲罰を受けても、決してあきらめない。捕虜を恥と思わず希望に変え、何度も脱走をくり返す……1940年。ドイツ軍の捕虜となった伍長(ジャン=ピエール・カッセル)は収容所で戦友と再会、どしゃぶりの中で語り合う。「命があっただけでもありがたい」、「生き残った方が名誉だと思うようになったよ」。個性豊かな登場人物たち、さまざまな人間模様。戦時中であっても彼らは日々の暮らしを営み、自分を生きる。女性に胸をときめかせ、彼女のささいな一言でとてつもない力を発揮することもある。戦時中でありながら展開は軽やか、しかしルノワール監督は、生のすぐ隣にある「死」を決して忘れさせることはしない。軍隊を実際に体験した監督のまなざしは、捕虜の1人ひとりの人生の豊かさをさりげなく描く。部下として伍長を慕うバロシェ(クロードリッシュ)とパタン(クロード ブラッスール)の存在感が際立つ。”C’est beau, Paris”とつぶやく伍長の言葉に、ルノワール監督は自分自身の思いを重ねたのだろう。パリを愛し、自由を愛する。反戦や平和への思いは、そんな気持ちの一直線上にあるのだと思う。(Mika Tanaka)出演:ジャン=ピエール・カッセル クロード・ブラッスール クロード・リッシュ ジャン・カルメ1962年 / モノクロ /107分Le Caporal épinglé version remastérisée de Jean Renoir avec Jean-Pierre Cassel, Claude Brasseur, Claude Rich, Jean Carmet ; 1962, France, N/B, 107 min
『コルドリエ博士の遺言 4Kレストア』Le Testament du docteur Cordelier, 『捕えられた伍⻑ 4K レストア』