『至福のレストラン/三つ星トロワグロ』ロアンヌ駅前。トロワグロ家のセザールとレオが顔なじみのマルシェを訪れる。鮮度のよい野菜たちを前に、会話がはずむ。次のシーンは父・ミシェルとのメニュー会議だ。開店前の仕込み、テーブルセッティング、スタッフミーティング、接客の様子……ナレーションも音楽もない。ありのままの日常をカメラがとらえる。厨房でもホールでも、そしてミーティングでも、常に会話が飛び交う。予約客の名前を読み上げ、アレルギーがあるか、苦手な食材があるか、入念に情報共有をするのだ。料理への情熱とおもてなしへの思いが言葉となり、その一言ひとことがくっきりとした輪郭を持つ。「火をよく通して、妊婦さんだ」、厨房ですばやく指示するミシェルの言葉が心に残る。1930年創業、55年に渡りミシュラン三つ星に輝き続けるフレンチレストラン「トロワグロ」。4年前、友人と訪れたこの場所での体験に感銘を受けたフレデリック・ワイズマン監督は、その場で「ドキュメンタリー映画を撮らせてもらえないか?」と尋ねる。4代目シェフのセザールから快諾の返事を受けたのは、その30分後のことだった。コロナ禍が落ち着いた2022年春に始まった撮影は、レストランのみならず、農場、牧場、チーズ工場へと広がっていく。「土が元気なら動植物が元気」、「すべては土壌から始まる」。生産者たちの声に耳を傾け、人の体に優しく環境に優しい食材を求める姿。大きな資本を持つ企業がバックにあるわけではない、「料理人のトロワグロ家」が4代に渡って人々の心をつかんだ理由を映画は教えてくれる。日本との縁が深いトロワグロファミリー。自家菜園で育てているシソは、料理の大切なアクセント。ミシェルが、自作のメレンゲのデザートに付けた名前を知ったとき、彼の日本への思いをあらためて知る。(Mika Tanaka)監督:フレデリック・ワイズマン出演:ミッシェル・トロワグロ、セザール・トロワグロ、レオ・トロワグロ、マリー=ピエール・トロワグロ2023年/仏語・英語/アメリカ/240分Menus-Plaisirs - Les Troisgros de Frederick Wiseman avec Michel, Léo, César, Marie-Pierre Troisgros; 2023, France, USA, 240 min
『至福のレストラン/三つ星トロワグロ』 Menus-Plaisirs - Les Troisgros