『ボレロ 永遠の旋律』出だしは優しく穏やか。リズムもメロディもいたってシンプル。単調だが心地よい。少しずつ音は厚みを増し、気づくといつのまにか大きな流れに飲み込まれていく。モーリス・ラヴェルの『ボレロ』はそんな曲だ。甘美に聞こえるような気もするし、そっけなくも聞こえる。官能と無機質が同時に存在し得ることを証明するかのように。映画の冒頭では、さまざまな『ボレロ』が登場する。交響楽、ジャズ、マリアッチ……アフリカの子供たちの歌声も聞こえる。2025年は、フランスを代表する作曲家の1人、モーリス・ラヴェルの生誕150周年。それに先駆け彼の伝記映画を託されたのが、アンヌ・フォンティーヌ監督だ。彼女はラヴェルという人物を的確にとらえ、しなやかな想像の翼を広げながら”ボレロの誕生秘話”を紡いでいった。彼のすべてを愛してくれた母親(アンヌ・アルヴァロ)、彼の音楽のよき理解者であるピアニストのマルグリット(エマニュエル・ドゥヴォス)、彼の音楽を踊りで表現するダンサーのイダ(ジャンヌ・バリバール)、家政婦のルヴロ夫人(ソフィー・ギルマン)、娼館の娼婦たち、そして彼の永遠のミューズであるミシア(ドリア・ティリエ)。ラヴェルはさまざまな女性たちに支えられながら、人生と曲作りに悩み、迷い、譜面と向き合う。工場の機械音を聞きながら育った子供時代、第一次世界大戦に志願し体が虚弱で医療班に配属されたときの体験、ミシアへの複雑な思い……自分のことを愛しているかと問うラヴェルに、ミシアが答えたその”ひとこと”を『ボレロ』の旋律に乗せたとき、ひとつの真実が見えるかもしれない。(Mika Tanaka)監督:アンヌ・フォンテーヌ出演:ラファエル・ペルソナ、ドリヤ・ティリエ、ジャンヌ・バリバール、ヴァンサン・ペレーズ、エマニュエル・ドゥヴォス2023年/フランス/121分Boléro d’Anne Fontaine avec Raphaël Personnaz, Doria Tillier, Jeanne Balibar, Vincent Perez, Emmanuelle Devos; 2023, France, 121 min
『ボレロ 永遠の旋律』 Boléro