生誕90周年上映『フランソワ・トリュフォーの冒険』やんちゃで、奔放で、不器用で。どこにでもいそうな子に見える。叱られて、諭されて、愛されて、成長して、いつか大人になっていくのだろうと思う。しかし、この 映画の主人公には、そんな当たり前の境遇がなかった。「大人は判ってくれない 」4Kデジタルリマスター版 Crédits : © MK2 『大人は判ってくれない』のアントワーヌ・ドワネル(ジャン=ピエール・レ オ)……親に見放され、護送車の中で涙を流すアントワーヌの目に映るのはきらびやかなパリの夜景。この街の誰かひとりでもいい、 アントワーヌのことに気づいて、お願いだから気づいて、そう嘆願する自分がいた。こうして、この映画は私たちの人生の一部にな る。そしてアントワーヌのその後は、演者のジャン=ピエール・レオの成長とともに映画を通して知ることになるのだ。
「夜霧の恋人たち」 4Kデジタルリマスター版 Crédits : © MK2 『アントワー ヌとコレット』、『夜霧の恋人たち』、『家庭』と、大人になっても失敗ばかり。夫としても父親としても不完全なままのアントワー ヌだけれど、彼が自分の家族を持ったことを喜びたくなるし、『逃げ去る恋』でコレットと再会したことが嬉しい。大変だったね、つ らかったね、でもよかった。悲しいモノクロ映画に出ていた君が大人になり、カラーのコメディ映画の主人公を演じるようになるなん て、と話しかけたくなる。
「ア ントワーヌ・ドワネルの冒険」シリーズと呼ばれるこの5作、できることなら時系 列で観てほしい。すべて見終えたとき、形容のしがたいほのぼのとした感触に包まれる。そしてもう少し時間があったら、トリュ フォー自身が重要な役を演じる『野生の少年』もぜひ。「も し映画監督を難破船の船長にたとえることができるなら、”女と子供を先に救え!”という船長の言葉を、私の映画監督としてのスローガンにしたいと思 います」トリュフォーが残したこの言葉に、愛に溢れる彼の映画に、どれだけの人が心救われたことだろう。(Mika Tanaka)À partir du 24 juinRétrospective TruffautLes aventures de François Truffaut

『フランソワ・トリュフォーの冒険』
