この時代、「女性である」ということがどんな意味を持っていたのか、映画は雄弁に物語る。画家として生きるマリアンヌの毅然とした姿にメッセージを託すかのように、カメラは彼女の表情を余すことなくとらえる。誠実な人柄も、戸惑う仕草も。しかし実は、マリアンヌの視線の先に存在にあるエロイーズ(アデル・エネル)こそ、炎のように燃えたぎる情熱を秘めた女性の象徴だ。浜辺を思い切り走ることすらかなわない毎日、拒絶することでしか自分の意志を伝えられない悲しさ。エロイーズは時代に翻弄される非力な女性のように見えながら、その芯の強さはマリアンヌ以上かもしれない。映画に登場するのはほとんどが女性。この時代に人格を認められることのなかった女性たちだ。しかし、彼女たちは確かに存在していて、歴史の表舞台に立つことはなくても、確実に何かを動かしてきた。焚き火を囲んで地元の女性たちが合唱する”Jeune Fille en Feu”を聞いていると、とてつもなく大きく神秘的な力に心が揺さぶられる。ほかに流れる音楽はほとんどないが、ヴィヴァルディの「夏」が効果的に使われる。マリアンヌが自分の好きな曲と語りながら鍵盤を叩くシーンがとても印象的。(Mika Tanaka)
監督:セリーヌ・シアマ
出演:アデル・エネル、ノエミ・メルラン
2019年/122分/PG12
La fille en feu de Céline Sciamma avec Adèle Haenel, Noémie Merlant; 2019, 122 min, PG 12